3日目その1
「うぇ~。疲れた~。」
魔導列車からのっそりとユキコが降りてくる。
「まあ、わからんでもないけどな。」
旅行も3日目。夜はベッドで寝ているとはいえ、毎日列車に揺られているからな。
女子にはきついかもしれん。
「でも昔の人は歩いて移動してたんだよね、この距離。すごいよね~。」
「確かに。でも昔の魔法が使える人達は、転移魔法で移動できたって読んだけどな。」
大学の授業で習った内容を思い出す。
「転移魔法は一回行ったところしか行けないんだよね、確か。」
クミが追加で説明している。
「え、んじゃ俺らももう、いつでもアオサこれんじゃん!」
「あたしらは転移魔法つかえんだろうが、バカタレ!」
リクがユキコに頭をチョップされている。
リクは本当に元気だな。
元気を半分とは言わない、せめて10分の1ぐらい分けてもらえないだろうか。
あ、でもリクの元気をもらうとアホになりそうだからやっぱいいや。
「今日は何見ようか?」
「あたし昨日ホテルで考えてたんだ!みんなでおそろいのミサンガ買わない?
ほらアオサはミサンガで有名なんだって。」
ユキコがパンフレットを広げて俺達に見せる。
「可愛い。」
「いいじゃん。記念にもなるし。」
「そうだな。いいんじゃないかな。」
「ダイスケ君は何か見たいことある?」
「俺は女神アクアリスの祠を観てみたいかな。」
「女神アクアリスって?」
リクが俺の発言を聞いて聞き返す。
「あんたマジか。」
「リク君ほんとに歴史学専攻なの?」
「ええ、そこまで言う?」
驚いた顔をしているリクがこっちをみる。
リクは自分の無知さがわかっていないようだ。
「リク、俺『勇者ナモミ』ってなんなのか知らないんだよ。」
「え?マジ?ダイスケそんなことも知らないの?それヤベーって。」
「それぐらいやばいってことだよ、今のリクは。」
「あ、そういうこと。」
リクに自分の今の状況がわかってもらえたようでよかった。
「じゃあ今日はその2つメインね。どっちからまわろっか?」
「俺のは後でいいよ。ミサンガは店閉まっちゃうとダメだからね。」
「いいの?ありがと~。じゃあ、レッツゴー!」
・・・
--アオサ 繁華街--
「これかこれだな~。」
「あたしは右の方がいいかな。」
「クミって地味なの好きだよね。」
「え~。ユキコが派手すぎるんだよ。」
女子二人がキャッキャ言いながらみんなで一緒に買うミサンガを選んでいる。
実に微笑ましい。
「ダイスケ!見て!このこけし、ここを押すと頭からおでんの木彫りが出てくる!」
一体どこに需要があるのかわからない謎のお土産を、嬉しそうにこねくり回すリクが話しかけてくる。
いいなぁ楽しそうで。
「気に入ったのか?買ったらどうだ。」
「そうだな!え、3000ガルかよ~。悩むな~。」
顎に手を当ててリクが考えている。
俺は、悩むところか?3000ガルだぞ。そんな訳のわからないものに3000ガル使うくらいなら、
晩御飯でいいもの食べた方が絶対にいいと思うけどな。
と言いたい気持ちを押し殺して、
「まあ、アオサの選りすぐりの職人が作ったオーダーメイドの一品だからな。3000ガルで手に入るのなら安い方だろう。」
と助言しておいた。
「ねえ、ダイスケ。ダイスケはどっちがいいと思う?」
クミとキャッキャしていたユキコが2つのミサンガを見せて聞いてくる。
「う~ん、右かな。」
正直どっちがいいかなんて興味がなかったので、クミが選んだ方を選んだ。
「え~。ダイスケ、あんたクミがこっち選んだからあんたもこっち選んだんでしょ?」
母親といい、ユキコといい、全くなんでこんな鋭いんだろう。
この世に生を受けた時から、ウソ発見器がプレインストールされているのだろうか。
「ダイスケ君もこっちの方がいいと思うよね。」
クミが嬉しそうに話しかけてくる。どうかクミにはウソ発見器がプレインストールされていませんように。
・・・
--アクアリスの祠--
黄色と黒のロープが張られ、その奥の祭壇にイヤリングが置かれている。
何となくだが厳かな雰囲気を感じる。やはり神具と言われるだけあって、特別な力を秘めているのであろう。確か、勇者パーティのディモール=フォセカが身に着け、パーティがピンチの際、幾度となく女神アクアリスが現れ、それを救ったって話だった気がする。
「綺麗だね。」
ユキコがうっとりとイヤリングを眺めている。
「確かに。いい色してるな。」
「アクアリスは深青色と薄青色を司る女神様なんだよ。」
「へ~。なんかすげ~な。」
リク、コメントが浅い。すごく。
でも俺もあんまキチンとしたコメントできないから黙っておこう。
「ダイスケ、満足した?」
ユキコがぼーっとイヤリングを眺めていた俺に話しかけてくる。
「うん、観れてよかったよ。」
「おっけー。じゃあ今日もホテルでディナーを満喫しますか!」
「ここの名物って何があるんだ?」
ユキコにリクが問いかけている。
「確か勇者一行のスミレが好んで飲んだとされてる、ぶどうジュースが有名だよ。」
「ぶどうジュースかー。ワインの方がいいかな~。」
「ワインもあるんじゃない?名物かどうかは知らないけど。」
「んじゃ俺ワーイン!」
・・・
「飲みすぎでしょリク。」
「・・・。」
「寝てるし。」
俺の背中で寝ているリクの頬っぺたをつついてユキコが呆れている。
全く、なんで俺が野郎を背負って部屋まで戻らないといけないんだ。
俺は年頃の女の子と、横断歩道を渡れずに困っているお年寄り以外は、背負わないと心に決めていたのに。
「明日は魔導エレベーターで一旦スカイガーデンに行くんだよね?」
リクの頬をつつくユキコにクミが話しかける。
「は~い。スカイガーデンにも魔導列車は走っておりますので、明日以降は空の旅でございま~す。」
バスガイドの様に案内口調で答えるユキコ。中々様になってる。残念だったなリク。
起きてたら面白いものが見れたのに。
「じゃあ、あたし達は部屋戻るね。」
「ああ、また明日。」
「「おやすみ~。」」
「おやすみ。」
部屋に戻った後、リクをベッドに寝かせた時、
リクのカバンの口からこけしの頭が見えたような気がしたが、
見なかったことにし、俺も布団をかぶって目を閉じた。たぶんまた見るんだろうな、明晰夢。