1日目その1
「おー。きたきた。」
ニヤニヤとしているリク。
「もー。ギリギリだぞ!」
腰に手を当ててムスッとしているユキコ。
「ごめんって。ちょっと変な夢みて動揺しちゃってさ。
遅れるって、魔法通信で連絡しただろ。」
「何それ。小学生でもしないよ?そんな言い訳。」
八重歯を見せてケタケタとユキコが笑う。
「ほんとなんだって。」
「はいはい。」
「でも、間に合ってよかったね!」
クミがユキコの横でニッコリする。
可愛い。この子が俺の彼女なんだと思うと、すごく幸せな気持ちになる。
ユキコの鬱陶しい説教も全然我慢できる。
「ごめんな、待たせて。」
「ううん、大丈夫だよ。」
「おい、とりあえずツアーの集合場所まで行ってから話しようぜ。
せっかく時間は間に合ってるのに、ツアーに置いていかれたら目も当てられない。」
・・・
「『魔導列車で歴史ツアー』にご参加の皆様はこちらの列にお並びください。点呼を取らせていただきます。」
「結構いるんだな。」
リクが身を乗り出して列の頭の方を覗く。
「他のツアー客から、歴史について聞かれることがあったりしてな。」
「まあ、俺は授業あんま聞いてないからわからんこと多いけどな。」
「聞けよ、授業。」
「ハハ。単位が大事なんだよ、単位が。」
「お前なぁ。もうテスト前にノート貸してやらないからな。」
「いいよ、ユキに借りるから。」
「30分2000ガルね。」
左手でコインマークを作ってリクに見せるユキコ。
「2000ガルは痛いな。いいさ、クミちゃんが貸してくれる。」
「リク君ダメだよ。ノートはちゃんと取らないと。」
「はい、気を付けます。」
「ちょっとー、何よその反応の違いー。」
「ハハ。おい、前見ろ前。列が進んでるぞ。」
・・・
「お待たせしてすみません。お名前をお願いします。」
忙しそうに、チェック用紙を見ながら話すツアー案内の女性。
「五十嵐ダイスケです。」
「逢坂リクっす。」
「坂本ユキコです。」
「小田クミです。」
「はい、ありがとうございます。4名様とも確認できましたので、お席の方にお願いします。良い旅を。」
・・・
「一日目ってラムチソだったっけ?」
旅のしおりをぺらりと捲りながらユキコがみんなに問いかける。
「確かそうだよ。七色祭りが有名な街だね。」
「昔話に出てくる勇者一行が、踊りを披露したって言われてるんだよね?」
クミの真っすぐな瞳が俺の顔に向けられている。
なんだか嬉しいのに、すごく照れくさい。
「うん、そうだよ。その踊りを披露したお祭りが今まで続いて七色祭りになったみたいだね。」
「へー。ダイスケさすが、真面目に授業受けてるだけはあるな。」
「いや、パンフレットにかいてる。」
魔導列車に乗る際にもらったパンフレットの説明部分を人差し指で指す。
「なんだよ、褒めて損したぜ。」
・・・
--ラムチソ--
「着いた着いた~。」
「どこ行こうかしら。」
他のツアー客が魔導列車からぞろぞろと降りていく。
その流れに乗って俺達も駅に降りる。
「『魔導列車で歴史ツアー』の皆様、本日のホテルはここになります。
お間違えの無いようにお願いします。」
パンフレットのに載っている地図を拡大したのであろう。
引き延ばされた地図が張り付けられている看板を掲げているツアー案内人が連絡事項を説明している。
「このツアー、ホテルと移動の時間以外は基本的に自由なのがいいよねー。」
ユキコが旅行用のスーツケースをガラガラと引きずってくる。
「だな。行きたいとこ自由に行けるしな!俺あんま行きたいとこってないけど!」
「あんたは一体、何しにこの旅行に参加したのよ。」
「えー、みんなで旅行行くっていったら俺だって行きたいっしょ。
みんなでまわったらどんなとこでも楽しいし。」
「リク君はこの旅行で歴史の勉強したらいいんじゃない?
単位取得に繋がるかもよ。」
「クミちゃんがそう言うなら、ちょっとがんばってみるかな。」
「頑張れ、リク。」
「おう。」
リクに頑張れと声を掛けてみたものの、
内心はクミの提案でやる気を出すリクに、少し嫉妬のような気持ちを覚えていた。
友達にこんな気持ちをもつなんて、やっぱまだまだガキなんだな俺も。
「で、どうする?ホテル行くまではどっかまわるんだろ?」
両腕を頭の後ろにまわして組むリク。
「うん。やっぱりラムチソに来たんだから七色祭りは見たいな。」
「うん、あたしも見たい。」
ユキコが俺の意見に賛同する。
「でも、ダイスケ君。七色祭りって今の時期もやってるの?」
「クミが思ってる通り、昔はシーズンだけだったみたいだよ。
でも最近では観光客も増えて、観光の目玉になっているからってことで、
観光客向けに年中やってるんだって。」
「どうせまたパンフレットに書いてあるんだろ?」
ニヤニヤするリク。
「いやそれは来る前に調べた。」
「そっちは調べたんかい!」
「はい、リクの負け~。みんな早くいこうよ。」
お祭りの音楽の聞こえる方を指さすユキコ。
・・・
「ラムチソ名物虹色アイスはいかがですか~?」
「虹色アイス安いよ~?」
「食べれる宝石!虹色アイスで~す!」
カラフルなランタンが至るところに飾られ、目にも耳にも賑やかな祭りの中、
やたらと同じワードが耳に入ってくる。
「虹色アイスってなんだ?名前聞いた感じうまそうだけど。」
リクも俺と同じような感想を持ったようだった。
「わかんね。クミ、ユキコ知ってる?」
「「知ってるよ~。」」
声を揃えて答える女子二人。
「え、有名なの?」
「女子の中では、というかスイーツ好きの中では当たり前だよ。
1つで7種類のアイスクリームの味が楽しめるの。
イチゴ、オレンジ、リンゴ、メロン、ソーダ、ブルーハワイとあとは・・・。」
「ぶどうだね。昔話に出てくる勇者パーティのナモミ様が、
アイスクリーム好きだったから生まれたらしいよ。」
女子二人がキャッキャしながら嬉しそうに話している。
くっそ。クミ可愛いな。
「何それ超うまそうじゃん!食べようぜ!」
・・・
「うまかったな~。虹色アイス。」
ホテルのロビーを歩いて部屋に戻っていく途中、
今日の昼に食べたアイスを思い出すリク。
「だな、見た目にも綺麗だし。2重で楽しめた。」
最初は食べる前、7種類も違う味を入れたら混ざって不味いんじゃないかとか、
7色混ざって汚い色になるんじゃないのかとか色々思った。
しかしアイスのカップは7つに間仕切りされており、俺が当初思っていたようなことにはならなかった。
でも、これって7種類のアイスクリームを1つずつ買ったのと変わらなくね?
と思ったのは内緒にしておこう。
「ランタンもカラフルで綺麗だったね!」
「ホテルの晩御飯も美味しかった~。旅行来て正解だったね!」
「クミ~、気が早いよ。まだ旅行は10日もあるのよ。」
「えへへ。あ、部屋に着いたね。また明日ね、二人とも。おやすみ~。」
ユキコとクミが部屋に戻っていく。
「「おやすみ~。」」
「よし、んじゃ俺らも寝ますか。」
「そうだな。」