バカな上司の話を蹴ったときの話
異動の話が来た。
隣の市の工場で品質保証の検査をする仕事らしい。
能力があって信頼できる人という良く分からない条件だ。
能力は比較だから、他に何でもは出来ない人が多いため、分からなくもない。
量を熟せない人や検査はできないとか、梱包の経験がないとか、組立が遅いとか。
が、信頼って誰からの、何に対してなのか、一切不明だ。
だが、何か知らないがその条件に私が入ったらしい。
話を持ってきた上司は若いが慎重にこちらの条件を聞き、何度もやって来て調整をしてくれていた。
例えば、今まで近所だったが仕事場が遠くなるため、通勤方法を電車とバスを使ってと時刻表もつけて教えてくれた。
私も行くつもりにはなっていた、そのときまでは。
上司の上司 ―― 所長がやってきた。
いきなり、異動しろ、と直球で来た。今すぐ決断を迫ってきた。
なんだかイラっと来た。
自分は偉い。その言葉は当然聴くだろって態度だ。上から目線ってやつだ。
まー上司だから上で合っているんだけど。
ちなみに話を持ってきた上司も後ろにいた。
「その話はこの前の話と同じものですか?」
と上司の方に視線を向け尋ねる。
上司は頷く。
「なんでわざわざ所長が来られたんですか?」
訊いてみると上司の交渉が遅いからだそうだ。
「上司から話を引き継いでから来ていただけますか?」
もう一度交渉するのは面倒です。当然の要求でしょう。
「なぜ?」
「効率が悪いからです」
「コウリツってなんだ?」
「作業効率とかの効率ですけど」
公立とか使わないでしょ、ここで。語彙力ないのか?
所長は上司にどういうことか聞いている。
懐を探して、今メモを持ってないという上司。
絶対嘘だ。
いつも懐に入れてるのに、それはない。
説明が面倒で誤魔化したか?
「ああ~、もういい。こいつとの話は無かったことにしろっ!」
こっちの方が切れそうなんだが向こうが切れてた。
「分かりました。さて何のお話でしょうか?」
ダンッ!! 所長が机を叩く。
「そっからか!」
「あんたが今言ったんでしょう。無かったことにしろって」
「もういい。他当たる」
所長が席を立って去ろうとしたとき、
「そんな態度で大丈夫なのか?」
なんかこちらの心配をする。
「人と場所は弁えてますよ」
つまりは今のあんたにはこの態度で充分だ、ということだ。
そもそもこの人はこちらの契約内容を理解していないようだ。
上司は契約内容が変わるため、慎重に話をしていたというのに。
実は、この工場で働くって条件があるから、勝手に他の工場に行くことが出来ないんだけどな。
まあ、個々の契約内容なんて理解しているわけはないか。
契約内容を楯にすれば断ったからと問題がないんだよね。
だから強気だったというのに。
私の異動の話がなくなった。異動は知り合いが引き受けたようだ。
ちょっと悪いことした。