外の世界、月光、覚悟
さぁ、日曜日に投稿しようとして盛大な誤字脱字たちに気づいて一週間丸々遅らせた川端です。
やらかしすぎました。
とりあえず。
本編……デジリアルワールドZeroどうぞ( ゜д゜)ノ
京都なんちゃらホームズ面白かった
「おい、少年!外は危険だぞ」
と、黒いスーツに身を染めて、爪は非常時にも合わないネイルが施された、ブロンド髪と相まって印象が悪く映る見た目の女は言う。
服は駅構内にあった無人のブランド店から拝借したもので、本人いわく。『ちゃんと後で金は払う』とのことだが、正直こんなにも破綻した世界でそんなことを律儀にする人間は居ないだろう。
現にすでに彼女たちはコンビニやスーパーから無断で、ご飯を食べていた。その間にお金を払ったことはない。
唐突に放たれた言葉の先は、彼女が張った鎖の隙間を、どうにか潜り抜けて外に出ようとする少年宛であり、それ以外の何ものでもない。
だが、少年は忠告を無視して外へ出ようとする。
「あぁ、もう。めんどくせぇな」
それを見て、この女。
一応教師であるはずなの西澤玲子は、口を悪く、お世辞にも教師らしい言葉遣いもなしに頭をかく。
呆れを明らかに醸し出しながら、少年に近づくとがに股でしゃがみ、
「こら、無視すんな。年長者の言いつけは守るもんだぞ」
と、精一杯の優しさで促した(つもり)のだが、
「いでっ!何すんだばばぁ!」
と、まっすぐな子供からの言葉を受け、
「……あん?もう一度言ってみろクソガキ!!私はこれでもまだ今年で二四歳だ!!」
一瞬で鬼のような形相を浮かべた西澤は、子供相手に本気を出しかける。
なぜそれがわかるのか。
それは彼女らがもう普通の人間ではないからだ。
体内に魔力と、その魔力を力に変換するためのコードを内包した存在。
「に、西澤さん!!ま、魔力、溢れてますから……コード出てますから!?」
そう、彼女らは。
世界を守るために人をやめた。
最初の七人の内の二人。
後世には『原初のセブンコード』と呼ばれる存在であるからだ。
……。
慌てて出てきた桜山杏鶴の言葉によって、西澤は自分の顔にコードが浮かんでいることを自覚した。
「ひっ、ば、化け物!?」
しかし、顔に模様が浮かび上がったそのせいあってか。
子供は鎖の外へ出るのを諦めて、駅構内の地下へ逃げていく。
「……。鎖は恐くなくて、なんで私の顔は怖いんだよ」
と、西澤は納得がいかないとばかりにため息を吐く。
しかし、子供が戻っていったのをみて西澤の顔から、コードの模様は引いていく。
「それは。歳上の、しかも異性の方に叱られては……怖いですよ。多分」
「杏鶴も私にこんな顔して怒られたら、泣いて逃げる?」
「…………その顔なら間違いなく逃げます。はい。全力で」
なにも考えずに笑顔を浮かべると、桜山はひきつった笑顔を返してきた。
「……そんなに怖いか?私の顔」
「………………」
なにかを言えば、怒られるのではないかと思ったのか。
桜山は笑顔浮かべるのみで声は出さない。
そしてそれを悟った西澤は鎖から離れながら話始めた。
「ま、しっかし外は未だに賑やかしてるからなぁ」
今現在、二人が潜伏しているのは北海道の主要都市的な位置にある札幌駅の中。さらにその南口。
約一日前にあった件で西澤ら、四人は二手に別れた。
それは、光の柱の出現。その調査に星菜と茉優を行かせたのだが、それから約一時間後に激しい爆発音と、一筋の赤い何かが宙へ上ったの最後に情報は途絶えた。
音が聞こえたのはここよりさらに数キロ進んだところにある、大通りと呼ばれる場所のどこか……だと、思われる。光の柱があった方向がそっちだから、という理由だけで、なにか情報があるわけでもない。
「一時的にとはいえ、急に数が増えましたからね……。星菜さんたちの方で、何か動きがあったのでしょうけど……」
デュエンデの大群が押し寄せてきたあの時。
それらを討伐するために戦ったのは西澤だった。
「んー。私でも感知できる魔力の高まりがあったのは確かだな」
というのも、桜山には攻撃の手段が今のところない。
彼女には味方を支援する能力のみ、与えられている。
しかし、桜山は他のコード保有者よりも突出した能力がなかった。
ある意味では、『支援』という他にない力ではあるが、身体能力や感知能力。攻撃防御ともに平均的に低い。魔力量は、人よりあるかもしれない、程度だ。それが、彼女に与えられたコード、ルーン。
「その節は申し訳ないです……強化しか、かけられなくて……」
一方の西澤は一対多数を得意とする能力を持っていた。
ゲート。と、現在は称している、黄金の歪みを通して剣付きの鎖を伸ばし、絡め、突き刺し、引き千切る。出せる数には際限がないのか、もしくは魔力が尽きない限りなのか。正確なところはわからないが、それでも。その力のお陰で誰よりも複数を一度に相手をできる。それが、西澤がもつコード。ロードの能力だった。
「いやいや、私本来の力じゃ結局押し負けてたし。やっぱ桜山を残してよかったよ」
肩を二回、西澤は叩くと奥へ歩いた。
「…そう、言ってもらえると……」
もう話を聞く気はなかった。
彼女は自分が弱いと思っているようだが、本当に弱いのは自分だ。
大人なのに。私は、雪吹や桜山のように覚悟を決められていない。
本来なら自分だって守られたいし、なんだったら普通にお洒落をして、明日死んでしまうかもしれない我が身なら、良い男でも捕まえておきたいとさえ思っている。
力を手に入れてしまった。だから、人を守るために戦う。
それは理解している。
しかし、どうしても「なぜ自分だったのか」。
そう思うことはあるのだ。力を得てからはたった一日しか、時間は過ぎていない。
「……お前たちならどうした。颯斗、柚葉」
あの事件のとき、この力があれば。
まだ心の変化はあったのだろうか。
なんて、遠い日の記憶に思料を落とした。
それから、数分後──
「いや、まてまてまて!!!どうしろってんだ!?」
桜山と別に駅内を逃げ回る西澤は困惑していた。
なぜなら、
「いたぞ、殺せ!子供たちが喰われる前に!」
「ころせころせ!怪しいやつは皆殺してしまおう!」
「ほ、本当に化け物かは知らないけど、でも、死っねぇぇぇぇぇええええええ!!」
なんて、守るべき人に。人間に追われているからだ。
「ちっ、能力を使っていいなら。秒で鎮圧できるけどなっ!」
走っていると目の前に棒が迫ってくる。
振っている本人が野球でも習っていたのか、そのスイングはなかなか綺麗なもので、顔面を捉えようと振られている。
「くっ、そが」
スカートが破けるのも気にせず、西澤は姿勢を低くし、スイングを逃れる。
勢いを殺さないままスライディングをしたような形になったため、やはりスカートの裾はすこし解れ、少し華奢な脚が露出してしまう。
「ぐおっ!?」
そんな脚に目がいっていたのか、真後ろを陣取る形で追いかけていた男の顔面に棒が当たった。おかげでドミノ倒しのように人が倒れていく。
「な、ご、ごめんなさい!くっそ。倒れろぉぉお!!」
仲間に当ててしまった男は、今度は縦に棒を構えると容赦なく振り下ろしてくる。
しかし、すでに人をやめた私にはその攻撃を避けることは容易くて。
体を少し、右脚を後ろに引いて振り下ろされた棒を掴んで引く。
男は簡単に前へ倒れ込む。
「がっ」
だからその顔面に蹴りを当てて気絶させる。
そのまま奪った棒で立ち上がろうとしている男の頭を殴り、他も同様に叩く。
「……ふぅ。加減って難しいもんだな……。しっかし、化け物じゃない証明のために力は使わずに逃げるって…………私はともかく。杏鶴は無事なのか?」
と、奪ったバットを遠目に投げて眉間を押す。
私たちは力を受け取って、説明を受けているからこそ理解できている。
外にデュエンデという怪物が蔓延るこの世界を。もとの世界に戻すために私たちは今に至る。魔力とコードを手にいれて力を得た。
一方で普通の人たちは、なんの力もない。説明もなし。あるのは恐怖心と疑心暗鬼。デュエンデという怪物と、それを倒す私たちは彼らの目には同じく化け物にしか映らない、のかもしれない。
子供たちは『英雄』だって言ったりもするが。
それも少数だ。現にさっきの子供のように私のあの顔をみて、逃げる子もいる。
「あれ、でも決まって逃げるのは戦闘をみたことがあったときだけのはず……っ、足音…!!」
奥から複数の足音が聞こえる。すぐに近くにあった支柱へ身を隠すと、どうやら。いや、当たり前と言えばそうだが、西澤の仲間ではなく、来たのは襲ってくる一般人の味方。
「くそっ、またやられたか。あの金髪の方はなかなか捕まえられないみたいだな……。子供の方はすぐにでも捉えられたが」
なんて言うものだから、
「なっ!?──」
反射的に声が出てしまった。
それと同じくして支柱へ小さな穴が開く。
「──は?」
最初は理解ができなかった。
多分、音がしたはずだ。
しかし、その音は耳には届いていない。それよりも左肩を貫いた、痛みが増していく。
「ぐっ、け、警察?」
「う、動くな!お前たちがなんなのかはわからないが、その身柄を拘束させてもらう。いいか、まずは手をあげろ。ゆっくりだ、こちらに手のひらを見せるように……」
目の前にはジャンパーを着込み、拳銃らしきものを構える……警察の姿があった。
「……物騒なもん、こっちに向けんなよ…………。いってぇ」
運悪く関節に銃弾が当たったのか、あげることができない。
「おぉ、お巡りさん!今捕らえます!」
後ろから頭を掴まれ、床に押し付けられる。
それも普通に痛い。なんだったら押し付けられて唇を切った。
「ぐへっ(てか、やっぱりどんなに力があっても。銃とか効くのね……)」
最も、痛みは感じているが肩も、唇も修復は始まっていた。
「よし、なにも持っていないな。手錠をかける。みなさん、すまないがこれを」
ぐいっと誰かが馬乗りのまま腕を無理矢理後ろ手に曲げる。
「痛い、いたいいたいって!」
「うるせえ!いいだけ仲間を殺したくせに……!」
「はぁ!?私は、殺してねぇ!てか、なんだったらほとんど同士討ちだっ!?」
「嘘をつくな!ここにあるのだって、皆死んでるじゃないか!」
と、口になにかを突っ込まれながら今度は、顔をさっき気絶させた男たちの方へ向けさせられ──
「ふが、な……で!?」
──全員、どこかしらに血が服に滲んでいて、大の字で横たわるやつの上にはナイフが突き刺さっていた。
驚いたことにそれは私が、雪吹が持ち出して紛失したもの。
あいつがはじめて飛び出してから、失くしたと謝られたものだ。
「ふが、ふが……かはっ、待て、本当に私はしら──!!」
なにかを吐き出して、否定をしようとした私は。
このまま捕まるのは良くないのではと、ブレスレッドのドライブを起動させようとする。が、
「これだ、これを奪えばこいつらは……!」
「なっ、なんでそれをしってんだよ!」
ドライブを外され、魔力のみが体の中に残る。
外部へ出す手段が無くなった。
「くそ、返せ、……よ」
直後、後頭部の痛みを最後に気を失った。
「……っ。ぅ…。こ、こは…?」
目蓋の裏からでも眩しいほどの月明かりが、ガラスの天井から降り注いでいた。
震える目を開けるとうっすらと人影が見える。
「西澤さん、気がつきましたか?」
隣から小声で話しかけられ、目を細め焦点を合わせればそこには桜山がいた。どうやら、私たちは拘束されているらしい。
『……気がついたか。化け物』
「…………なぜ、殺さない?あんなに殺そうと、していたのに」
影に潜む人物へ向けて、声を飛ばすが反応はない。
どうやら相手は一人のようで、周りに気配はない。
『なぁんてね!……いやぁ、僕は別に君たちを殺す人じゃないからさぁ~?あれ、わからない?一度会ってるよ?』
と、言うなり影の人は楽しそうに、愉快そうに体を左右に揺らしては、なんかのショーの演出なのかというほどの回転と決めポーズを決める。
「はぁ?誰だ、お前……?」
だから、わからない。そう答えると、
『あらら。桜山ちゃんは分かるのにね?全く記憶力がない人だ。僕だよ、僕。藤野だよ』
そう、ばっと前へ一歩。飛び出してきた。
瞬間的に彼は月光に照らされ、白衣と白いシルクハットのような帽子が光を少し、反射する。
『いやいや、大変なことになってるねー。まさか、世界を救うヒーローが、化け物呼ばわりされてるなんて。でも、安心して?そう呼ばれたのは、君たちが初じゃない。先に別の人が言われたから、そこだけは安心してね』
男が、何を言いたいのか分からなかった。
それほどに彼は自由で、そして高らかに喋り続ける。
『あぁ、それにしても。状況整理をさせてあげようか。今日は世界が滅ぶよと、君達に宣言してから四日目の夜。明日は五日目だよ。そして君達は、僕が作った怪物、デュエンデと同一視され今拘束されているわけだけども……くふっ』
「……何が言いたい?」
『いやぁ、たしかに。僕が創った。という点では、あながち間違いではないなって……。創った本人としては、片方は世界の破壊者で、片方は世界の救世主。として創ったんだけどなぁ。悲しいよ、意図が伝わらなくて』
何が面白いのか、藤野は終始笑って説明をしている。
私はこの男を、楽しそうに。と、解釈をしていたがどうやらそれは違ったらしい。
隣の桜山の反応をみていれば分かる。
この男は、
『でね、本来はすぐにでも殺そうって話しになってたんだけど。さすがにそれは困るなぁって思ってね。やめさせたよ、ちょっとした事件を起こして。子供が一人、外に出ていった。名前は『そうた』だそうだ。その子が外にどうしても出たいというからだしてあげた。もちろん、片道切符だけどもね?だから、大人たちは焦って焦って……で、とりあえずひ弱な桜山さんは起きていても害がないってことで放置。ちょっと強いあなたは気絶で放置ってわけ』
狂っているのだ。それも、子供の命が例えどうなったとしても、気にしないほどに。
『だって、君たちを殺すのは僕で。僕を殺すのは君たちなんだもん。それ以外の要因で死ぬのは許さない。だから、君達は今のうちに逃げるといい。とはいえ、二人ともドライブを奪われてるからなぁ。さすがに代用機は用意していないし。そこは、二人にがんばってもらうとして──』
「ふざ、けんっな!!!」
くくりつけられていたオブジェのことなど、気にもせずに西澤は魔力をコードを全身に這わせた。
今すぐにこの男の口を、黙らせる必要があると彼女の脳がそう、断言したからだ。
『──ふむ。せっかく人まで殺して生かしてあげたのに。なんでそんな怒るのかな?僕には理解ができないよ』
「うるっせぇ!!いっぺん、くたばっとけ!!」
ガシャッん!と、巻き付けられていた鎖やロープが千切れる。
右手を強く握り、限界まで引きながら、間合いを詰める。
魔力を乗せた拳を、
『まっ、またあとで会いに来るよ。その時は、お互いに殺しあうかもしれないけどね』
突き出した。右拳が、頬に触れた刹那、男は後ろへ倒れるようにして影へ消えていく。そのせいか、不思議と当たったはずなのに当たった感触がない。
『あぁ、そうだ。これだけは伝えておくよ。七人全員。集結おめでとう』
その言葉を最後に、闇に溶けるようにして人の気配は跡形もなく消えた。
「くっそ、ガキ一人見つけらんねぇーのか!自分達は……!」
すべての時計の針が、一二時を回った頃。
西澤と桜山の姿は駅外にあった。
二人は、脱走したわけでもなく、かといって自由の身というわけでもない。
『少年を無事助けてくる』という、条件付きで解放されたのだ。
「雪吹くんがいれば、見つけられたんでしょうか……」
「んな、こと言ってねぇで探すぞ!そうたー!どこだ!!」
交換条件は、自分らの自由とドライブの返却。
桜山はともかく、西澤はドライブがなくては能力の全ては使えない。
もしここでファングルと遭遇したものなら、彼女には太刀打ちができない。ドライブなしでは、攻撃は不可能だからだ。
「……って、考えてる側から!」
「ファングル!?しかも、こんなに……!!」
何処から現れたのか。そもそも、いつの間にこんなにも集まっていたのか。それを考えるよりも先に出たのは、
「桜山、壁を頼む!逃げるぞ!」
戦うことよりも逃げることを優先した言葉。
力があっても、それを出力するための物がなくては戦えない。
彼女らはそう、創られているのだ。
しかし、持っている能力によっては、桜山のように多少の能力は使える。
だからこそ、逃げるための壁を創らせようとしたのだが、
「っ、ぁ。ダメです!保ちません!威力が、足りない……!」
やはりドライブを武器化……専用装備へと昇華できなくとも、装備しているだけでも力を引き出すには効果があるらしく、現在ドライブを奪われている桜山が造り出した壁は今まで一番脆いもので、すぐに壊れてしまいそうなもの。
それを見て西澤は、桜山を抱えて走る。
「おわっ!?」
「多少とは言え、私の方が足速いみたいだからな!しっかり掴まって、舌噛まないように!」
「は、はい!」
腰に左腕を回して、太股を右腕で支える。
そんな形で抱き寄せながら走った。
瓦礫の上を飛び、壁を蹴り。時には、ファングルを踏み台にして。とにかく囲まれる可能性のある場所を避けて逃げ回る。
その間、桜山は黙って抱えられているわけでもなく、私が足を掛けるための台や、ファングルを阻むための壁を出来る限り出している。
振り返れば怪物はほとんど、撒けていた。
やつらは喰えない獲物は追わない。
多分、やけに現実のライオンやチーターなどの肉食獣に近い行動なのは、創った人間の趣味趣向だろう。
おかげで、生き残れそうな訳だが。
「……っ、でも。さすがに、体が、おい……つかない……っ!」
路地に入り、ビルの壁を蹴る形で上へどんどん上がる。
一匹が最後まで食らいついてきたところで、ちょうど西澤の魔力が大分消費されてしまって、身体が急に重くなって、
「くっそ、こいつだけ。どうにか……!」
それでもコードを右脚に集中的に張り巡らせて、左足を軸に回る。
左牙を靴の先が掠めるが、怪物は何事もなかったように前肢をあげて、振り下ろしてきた。
「『隆起』、『陥没』…………西澤さん!」
が、抱えていた桜山が能力で凹凸を作る。おかげでバランスを崩した攻撃は解れた裾を少し切り裂いただけで終わる。
「ん、どりゃぁぁあ!!」
軸足にもコードを廻して、ぶれないように。
目一杯右足を曲げきって突き伸ばす。
「はぁ、はぁ、んっ、はっ。おいおい、……あと二日で。二日で世界を救わなきゃいけないっ、てときに!なにしてんだか、私たちは……」
蹴り飛ばした後、登ってこない様子を見て安堵するも束の間。
ファングルの動きが目に焼き付く。多少のダメージは負ったようだが、やはり無傷な様子で相変わらずの俊敏さを見せつけるように走り逃げていく。
再度襲ってこない状況から見て、ゆっくりと桜山を下ろしたあと、西澤は大の字で曇り空の下で横たわった。
元々ここは屋上に設けられた飲み屋だったらしく、プラスチック製の椅子やテーブルがあり、それなりに小綺麗で洒落ている。
もしかしたら、飲み物の一つや二つ、あるかもしれない。が、それを探す余裕は、自分には残っていない。
「……私も、ここでしたら自分の足で移動できますから、上から探してみましょう。もしかしたら、見つかるかもしれないですし」
「だなぁ。あーくそ。人探しは得意とか不得意以前に。魔力……と雪吹に頼ってたのが裏目にでてんなぁこれは」
誰しも得意不得意はあるだろう。だが、それぞれに別の力を持つ私たちは、それが如実に出ていると言えるだろう。ルーンにしか、支援はできないし、アーチャーにしか広範囲の索敵はできない。近距離もまたセイバーにしかできず、他の武器にさわれるのは西澤のロードのみ。
西澤が知っているのはこのくらいで、あとは全員人よりも強いというだけ。
他に三人居るらしいが、私には残りのやつが何に長けているのか、分からない。一人はランサー……尾立茉優という、馴染みの子だが、それでも名前からの推測しかできない。
「そう、ですね。でも、がんばりましょう!じゃないと私たち、どのみち死んでしまうかもしれませんし……」
「……だな。あれがなきゃ、こうも力がでないしあれも倒せないって様子じゃ。いつ殺られてもおかしくない」
と、言いながら西澤は目を閉じ、身体全体にコードを這わせる。
そしてそこに魔力を流し込み、全身を強化する。
「よし。これで、たぶん、即死はしない……はず」
「……先に魔力切れて倒れないでくださいね?」
隣に立っている桜山が、同じくコードを身体に浮かばせると手を差し出してくる。
「あぁ、お互いに。どうにか雪吹たちと合流できるよう。奮闘しよう」
──『ここは、どこだろう』
なにやら心地よい気持ちで、少年は考える。
ふと目を開けてみると、視界は紅い。
だが、透明感のある紅さで、それでいて不思議なことに自分が液体のなかにいるんだと気づく。
『……ここは、どこ?』
水のなかにいることを自覚した瞬間、息が苦しくなる。
必死に腕を伸ばすが、その手はなにも掴むことができない。
触れられるのは、硝子のようななにか。
指先が滑りに滑って、爪が少し欠け。
声も、出せない。
『……!た、すけ……て』
気を失う直前、硝子の向こうに写った二つの人影へ……らしきものへ、もう一度手を伸ばした──
見たことがない、大物が現れたのは突然だった。
目の前の空間が揺れ、なにかが飛んできていると直感的に回避をした直後。
そこに現れたのは、腹のような部分に赤い光沢を放つ宝石のらしきものを嵌め込んでいるデュエンデ。両腕は先端が無数に割れていて、それに刺されたものなら一溜りもないのではないかと、想像は容易い。
宝石の中に子供が、いた。見たことのあるパーカーを羽織っていて、男の子にしてはちょっと長めの髪で、失礼なことを言ってくるような目つきの少年。その顔を見てしまう。
「あれは、そうた!?なんであんな物の中に……!」
「っ、西澤さん、来ます!」
「くっそ!これを倒すには、無理があるだろ!!?」
ゆっくりと、いや。あまりにも動きに無駄がなかったからこそ、反応が遅れる。このデカブツはファングルとは違い、知性が感じられなかった。あれらは生きるために食う。といったようにも捉えられなくはなかった。しかし、この巨体の怪物は、機械的で、
「動きが読めん!」
ようやく見つけた瓦礫の山に、飛び込む。
あれはただ目の前の敵を破壊する。と、言っているような気さえしてくる。一見読みやすい動きだ。
しかし、だからこそ逆に私には読めない。
単純な動きだからこそ、予測はできる。だが、こうも平坦な場所だと隠れる場所もなく、むしろ難しい。結果がわかってしまうからこそ。
攻めることができない。
『いやぁ、試作品だけど。すごいでしょ、これ。人の命を吸って動くんだ』
なんてことを、不意に上から言われた。
見るとそこには靡く風に飛ばないよう、帽子を押さえる男の姿がある。
それを聞いて西澤は、
「てめぇ!子供の命を、お前の遊びになんか使うんじゃ、ねぇよ!」
全身を包むコードに、さらに魔力を流す。
身体中が暑くなるほどに、目まぐるしく魔力を循環させる。
『いいじゃん?どうせ、そとに出れば死ぬ命だ。僕が使ったところでたいして差は……』
「んなの、てめぇが決めるな!!!」
立ち上がり、固めた拳を放とうとしたとき、
「西澤さん!!」
何かが頬を斬りつけた。コードによって生半可な攻撃では傷がつかない皮膚が、切れたのがわかる。
桜山の声でハッとして私はすぐにしゃがんだ。
すると頭があった位置を、何かが通る。
「あっぶねぇ。死ぬところだった……」
垂れる血を甲で拭う。
「い、今治癒を……」
「いい。温存しといてくれ。私の再生能力でまだ治せる範囲だから……」
桜山からの治癒を断り、頬に魔力を集中させる。
「ぐっ……。っ」
離れた細胞同士が、無理矢理伸びあってくっつき。激しい痛みを伴って治っていくのがわかる。
『あらあら。もう、人間らしさ。で言うと見た目だけかねぇ』
「うるせぇ!そもそもお前が仕組んだんだろうが!」
頭上でニマニマと笑顔を浮かべながら、ぐうっとしゃがみこんで、顔を近づけてくる。そして、小声で、
『まぁ、それは否定しない。けど、悠長にこの場で隠れてると男の子が死んじゃうよ……?』
藤野は話す。
『子供一人で動ける時間は多くて三〇分。入れたのは一〇分前だから、持ってあと二〇分か。どうする?英雄?』
やはりこの男はどうしようもなく狂っていた。いや、既に私たちを実験台にして、俗に言う人体実験を行っていたやつだ。狂っていない訳がない。
「くそが。黙ってろ!あんな、硝子みてぇなやつなんか、私が!」
石を拾って、遠くへ投げた。それにデュエンデは反応を示さない。
「魔力を追跡するってこと……かよ!?」
頭を目掛けて射出された針を避けるように瓦礫に隠れる。
唯一の救いは瓦礫越しに攻撃をしてこないということか。
多分だが、物越しに魔力を感知する機能が備わっていないのだろう。
「そ、それなら!私に考えがあります!」
と、桜山は足元にあった石を拾って、ボソボソと何かを呟く。そしてその石を、投げた。
──……ギコッ。
錆び付いた機械が、動いたような音。直後、宙を舞う石が砕かれる。
『なるほど、ルーンの力で石に魔力を込めたのか。たしかに、他のコードには与えなかった力だ』
どうやら、そういうことらしい。
「とりあえず桜山、もう一度頼む」
「はい!」という、やる気に満ちた掛け声を聞いて、西澤は飛び出した。
複数の針が、自分を狙って射出される。
その速度は恐ろしく速くて、眼で正確に追うことはできない。
しかし、そのうちの数本が直角に。一度動きを止めて別の方向に向かったのがわかった。
桜山だ。
「たすっ、かる!!!」
どうにか針を縫うようにして、刹那を駆ける。
結果一本だけ腹部を射し穿ったが、気合いで宝石まで入り込み、全力の一撃を。拳を固めて、紅を殴る。
『わぁお。容赦がない』
実際に殴ると怪物は思いの外軽かった。後ろにあったビルを突き抜け、さらにその奥まで吹っ飛んでいくほどに。
「がっはっ!くそ、いてぇ……!」
痛いのは当たり前だった。
多分、肝臓を貫いたであろう針を抜かずに、殴った。
本体が飛べば、糸で繋がれていたそれは必然的に同じ方向へ引っ張られる。
「……西澤さん!こ、今度こそ!治癒をします!させてもらいます!!」
臓器ごと針が抜けたのだ。
そんな光景を見れば、桜山も飛び出してしまうのは無理もない。
「馬鹿!まだ倒せてねぇ……!で、て来んな!」
痛みに耐えながら、ビルの影から仕掛けられた攻撃に、私は。
西澤は桜山を守るように覆い被さる。
「っ、すみません。私……、!」
「がはっ…………。どうして、こんなにも怪我を、負うのかねぇ。私は」
貫通こそしなかったが、どうやら、色々と身体のあちこちにそれは刺さった。
「西澤……さん?」
「大丈夫だ。吐血するほど、やられてはないさ……すっげぇ、痛いけど…………っ」
針が抜けて、桜山に体重をかけてしまう。
自分の手足で踏ん張っていたつもりだが、恥ずかしいことに針に支えられていたらしい。
『……流石は僕の子供だ。なかなかしぶといね。君達は』
「はっ、今だけは。はっ……その造りに感謝するよ……ありがと」
息を整えながら、私は藤野を見る。
彼は驚いたような表情を浮かべたあと、
『お、やけに素直──』
「──杏鶴」
私の一言に顔を歪ませる。
「お願いします!そうたくんを、あの怪物を止めて……ください……っ」
治癒のルーン、加速のルーン、攻撃、防御。それらを微力ながらに桜山はかけてくれた。
魔力を、ほぼ全て分けてくれた。
だからこそ、動ける。
這いつくばるような、端から見れば二〇数歳の女がとるような体勢では決してなかったが、両手の先を地面で汚してでも、向きを変えて。
指先で、身体を支え起こして立ち上がる。
「あぁ、絶対に。次で何とかする。してみせる!」
なにか、武器があれば。あれを破壊できるなにか。
「っ、な、んだ?」
傷が治る痛みとは別に。左手に違和感を感じた。
みると半透明な、実態のない鎖が腕をぐるぐると絡めている。
「これは……?」
まるで武器が、自分の思いに応えてくれたかのような反応だった。
鎖は目で辿ると途中で見えなくなっていて、先がどうなっているのかはわからない。
ズガンッ!と、ビルを破壊しながら伸びてくる針を、反射的に腕を振るって。鎖で受け止める。
ジャラジャラと火花を散らしながら、鎖は攻撃を防いでくれた。
「っ!これ、なら!」
多分この鎖は魔力によって創られた物、なのだろう。
だからこそ、あの攻撃には。当たり判定が生まれる。
ゆっくりと走り出して、左手を構える。
素早く、しかし真っ直ぐ放たれる針は。守るものがあれば、恐ろしくはなかった。
「(私には、覚悟が足りてない)」
迫り来る二本の針を左手を伸ばし、鎖を絡めて落とし、戻らないよう地面に縫い付ける。
「(本当は、お洒落して。合コンでも行って、男ひっかけて。……そんで、結婚して子供つくって。孫みて……死ぬ。そんな普通の生活を送りたかった。送りたいと、今でも思ってる)」
ふいに生暖かななにかが、両足を伝った。
それがなんなのか、すぐにわかったが気付かないふりを続ける。
普通なら痛みでそんなことはできないだろうが、血が足りなくなって、思考力が落ちた私の脳ではすごく簡単なことだった。
「……無駄話はやめよう。たしかに、覚悟はなかった。でも、今。私はなんのために世界を救うか決めた」
せっかく、桜山が治癒をかけてくれたと言うのに。
今の私には、怪我を治している余裕がなかった。
魔力は治癒を発動するために一切使っていない。
少しずつ魔力の作用によって治ってはいるが、激しい動きにそれは意味を成さない。
その上、肝臓がない今。血液が固まりにくくなったのだろう。
少しは服が吸っていて垂れていなかったが、限界がきたようだ。
「私はこれでも教師だ。そして大人だ。だから、私は、子供を救うために。子供たちの未来を守るために世界を救う!」
これまでにないほどに全身に魔力を滾らせた。
反動で傷口から血が吹き出すが、気にしない。
それどころか、死に向かっているというのに脳は麻痺して痛みを打ち消すようにアドレナリンを出す。
脳から出る快楽信号が、狂ったように全身を巡る。
それを合図に、地面を蹴る。
一歩で三〇〇程の距離を、瞬きの間に駆け、左手を上段に構える。
「終わりだ、子供を、返してもらう!」
全力で押し抜くために右手を添えて、突きだした瞬間。
左手の鎖が一点に収束して、なにやら光出す。
眩い黄金の光に、私は少し目を細める。
光はすぐに消え、見るとそこには見覚えのある大剣が浮かんでいる。
「星菜の、大剣……!?」
なぜ彼女の剣がここにあるのか、そう考えたのは一瞬だった。
咄嗟に塚を握り、なけなしの魔力を乗せて硝子を砕く。
気づけば鎖は左手を包んでいない。あるのは大剣一本のみ。
たんに魔力がなくなって消えたのか、あるいはまた別の理由なのか。
「って、そんなことより!」
子供を抱き寄せ、後ろへ全力で下がった。武器が重たいせいもあり、速度は先程よりもでない。
しかし、エネルギー源を失った怪物は追撃をしてくるわけでもなく、腕らしきそれを不自然にあげたり、下げたりを繰り返して──止まった。
『ふむ。お見事!少年もまだ辛うじて生きてるし、よかったね!……じゃ、僕はこれでお暇するかな』
「待て!次はお前を──!」
『無理だよ、そんな身体じゃ』
「──何を言っ、て……んっガっはぁ!ぶばっ……!!?」
帰ろうとする藤野へ、剣を向けた瞬間。
急に身体が、自分の意思とは別の動きをする。
今まで出ていなかったのに、口からも血が出始める。
『膨大な魔力で誤魔化していただけだよ。それ。はやく治癒に魔力を注ぎな、じゃなきゃ世界を救う前に死ぬよ、君』
「……く、そが…」
剣に寄りかかるようにして、片膝をつく。
男が言うように、自分の身体は既に限界を迎えすぎていたようで。
夕日が沈むなか、私は憎むべき相手を睨みながら、目を閉じた。
デジリアルワール Zeroどうでしたか?
今回は西澤さん視点オンリー回です。
珍しく雪吹君出てこないし、なんだったら急に五日目になるしで驚きが隠せない(嘘です)。
本編では多分描かれませんが、少しだけ補足するなら、約二日間雪吹らが行動不能になった理由があったのです。
その結果二日の間音信不通に……。って、そもそもこの人たち携帯を持ち歩いてない(一部持ってる人いますがさすがに電源切れてます)ので連絡手段がないのですが。設定上、ドライブにも通話(チャット?)機能はありますが、本人たちは知らされてないので使えるわけもないので、今のところ雪吹くんが目覚めていないと全員集合は難しいですね。
とはいえ、次回は雪吹に活躍してもらいたいところです。予定では最終話予定ですし……
ところで、皆さんはもし急に世界がおかしくなって。それを救えるのは君達だけだ。なんて、言われたらどうしますか?
自分の場合、多分ほどほどにがんばります。本編に照らし合わせるなら、スタートの『覚悟』のない状態で戦い続けていた西澤さんみたいな感じですね。
急に命運は君達に!みたいなこと言われたって、知らんがなそんなの、ってなります。
だからこそ、はじめは能力がわかっていても。
力がそれに応えてくれていませんでした。
生半可な意思ではフルに力は使わせない……みたいな?とはいえ、専用の出力するための道具がとられてる現状、あれが西澤さんの出せるフルでした。といえことです。
長くなりました。
それでは、次の投稿でm(_ _)m




