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この世以上、あの世未満  作者: カナリア
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3.あのよのくらし

「こっちよー!」

 その光はある屋敷に入っていく。

 何だか、時代劇とかに出てくる奉行所?なんかに似ているような少し大きな屋敷だった。

 光はどんどんとその屋敷の奥の方へと進んでいく。

 すると廊下の突き当たりに下へ降りる階段があった。そこは今までの廊下と違い、洞窟のようになっていた。

(一体、何があるんだ?)

 階段を降りる。

 中はとても暗い。先導してくれている光(あの女)がいなければ多分下まで真っ逆さまに転がっていただろう。

 何だか、家の中にしては随分と長い階段だった。

 でも、死んでいるからか疲れは全く無かった。

 ようやく降りきった。

 その先にあった光景━━━何だここは...?


 そこは海岸のようになっていた。

 どこまでも続く広い海、砂浜。

 深く立ち込める霧。

 そして、桟橋と一隻の手漕ぎ舟が見えた。


「ここは何処ですか?」

 女はあっさり答えてくれた。

「三途の川、名前くらいは知ってるでしょ?」

 三途の川━━━此岸(この世)と彼岸(あの世)の境目にあるという川だ。

 本当にあったのか。しばらく魂が抜けたかのように(もう既に抜けてるとかは言わない)川を眺めていた。

 あ、そうか。ここでようやく女が言っていたことがわかった。

「その表情、何とか理解してもらえたようね。」

「ああ、()()()|だけどな。」

 さっきの村の場所、それは何となくわかった。


 ただ、また一つの疑問が浮かんできた。

「さっきの村、あそこには何の意味があるんだ?」

 そう、別にこの世とあの世を繋ぐ役目はこの川がしてくれている。

 なら、あの村が存在する意味がない。でもどうしてあの村は存在するのだろう。

「あそこは普通に生活するための場所よ。」

 普通に...生活...?

「ちょっと待て、ここで生活するのか?」

「ええ、そうよ。」

 ここは一応は死後の世界だろう...

 それなのに、何故生活する?

「また、分からなくなってきた...」

「死後の世界を一瞬で理解できる方が少数だから、別に焦らなくていいのよ。」

 まあ、死後の世界マニアとかいたら怖いな。

「あそこで生活することはできるのか?」

 気を取り直して、聞いてみる。

「ええ、現にあなたはこの世界のものに触れられているでしょう。だからあの家のものも普通に使うことが出来るし、食べ物があれば食べることもできるわ。」

「そうか、わかった。じゃあ、どうして死後の世界まで来て暮らす人がいるんだ?」

「ごめんなさい、一つ訂正。今、あの村に住んでいる人はいないわ。」

 それは予想通りだった。あの村で目覚めた時、見渡す限り人影は一つもなかった。だから、逆に生活すると言われた時に驚いたのだ。

「そうねぇ...色々な理由があるわ。」

 女はその理由を語り始めた。


 例えば━━━まだ現世で過ごしたかったから。

 これは、若い人にありがちな事らしい。

 現世の暮らしが楽しくなっていた時に、不慮の事故や病気で亡くなった人は、もう少し現世の暮らしをしたいと言ってあの村に住んだらしい。


 他に━━━この川で親(祖父母)に止められたから。

 これも若い人に多かったらしいが、別に現世に未練とかがなく、そのまま川を渡ろうとしたが、岸の向こうでこっちに来るな!と親に止められたりすることがある。その場合は、所謂、「神様」がその親の意見を優先するらしく、許可が出るまで村で時を過ごさせるらしい。


 また━━━親しい人、愛する人と共に暮らすため。

 これは年齢関係なくあることだ。夫婦の一人が亡くなってこちらに来た時、またこちらで二人で再開できるまで待つためや、再開した後も夫婦で暮らすことがあったらしい。それは仲の良い友達の時にもあったそうな。


 ただ一番多い理由は━━━地獄行きを回避するため。

 実は、この村で善行を積むことで、現世での悪行を少しずつ帳消しにすることができるらしい。そうすることで、本来地獄に行かなければいけない所を、天国に行くことができるようになるらしい。それで村に住んでいた人が多かったようだ。


 女は一通り理由を話し終えた。

 なるほど、死んだからといってみんながみんな現世に未練が無いという訳では無いらしい。現に自分もそうだったが。

 ところで、

「どうして今あの村に住んでいる人がいないんだ?」

 また新たな疑問が浮かんでいた。

「そうねぇ...最近の人は、未練を残す人が殆どいないのよ。」

「そうなのか?」

「ええ。ここで残っていた人たちは全員常世へ行ってしまったし、後から来た人たちも、もう現世の暮らしは懲り懲りだと言って残らないのよ。みんな望んで地獄に行くなんて、おかしい話よね。」

「へぇー、そうなのか...」

 今までの現世の暮らしが幸せかと言われると、確かにそうではない事の方が多いように思う。そうなるのも無理はないと感じた。


 あっ、と女が言う。

「肝心な事を聞き忘れていたわ。」

 少しの間を空けて、女がこう問いかけた。


「あなたはここへ残る?」

道案内してる時は「光」に、

話している時は「女」になります。

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