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この世以上、あの世未満  作者: カナリア
1/4

1.この世にさよなら

 みんなは死後の世界はあると思いますか?


 俺はあると思っていました。


 ・

 ・

 ・


「おはようー!」

 扉の奥から聞こえてきたのは元気な声だった。

「おっす。」

 少しぶっきらぼうに応える。

 学生カバンを手にしているそいつの名は萌乃もえの。いわゆる幼馴染みだ。

「早くしないと遅れるよー。」

「わーってる。」

 俺は急いで靴紐を固く結んで家を出る。


「いやー、今日からテストだね、まなぶ。」

 萌乃が俺の顔を覗き込んでくる。

 学は俺の名前だ。

「あぁ、面倒臭いなー。」

「今回は大丈夫なの?」

「前回のアレはただの凡ミスだ。今度はしくじんないさ。」

 実は前回のテストの時、数学で覚える公式の一部を間違って覚えていて、まさかの赤点になってしまった。

「ならいいんだけどね。」

 萌乃はまた、前を向く。


 いつも通りの道。

 いつも通りの人の声。

 この風景はいつまでも変わらないのかなぁ、なんて自分に合わなそうなことをふと考える。

 公園では小学生らしい子供たちがドッジボールをして遊んでいる。

「いいなぁー、小学校は休みで...」

「まぁ、このテスト終わったら俺達も休みなんだから、さっさと終わらせよう。」

「そうね。」

 そんな事を話していた時だった。

 公園の入口からボールがコロコロと転がってくる。


 嫌な予感がした━━━


 ボールを捕まえようと子供が出てくる。

 予感はどうやら的中したようだ。


 けたたましいクラクションの音が鳴り響く。


 道路に飛び出した男児に大型トラックが突っ込んできていた。

「危ないっ!!」

 望が叫ぶ。


 その時、俺は。

 自分でも思いもよらなかった行動をしていた。

 カバンを放り投げ、そのトラックに突っ込んでいた。

 こんなこと、よく本のストーリーであるよな、なんて呑気なことを考えながら。

 何だか、周りがスローに見える。

 周りの人達の表情もしっかり見える。でも何を言ってるかは全く聞こえなかった。

 とにかく、男児を連れて早く逃げよう。

 間合いが詰まっていく。


 よし、捕まえた。

 後は、このまま━━━


 あ、


 これ、間に合わねぇ


 気づいて前を向いた時には、もう約5m前までトラックが接近していた。どうやら、もう止まれないらしかった。


 くそ、


 これで、俺の人生も終わりかよ...


 それなら、せめて━━━


 抱えてた男児を、思い切り歩道側へ投げ飛ばした。大きな怪我を追わないよう願いながら。


 その直後だった。

 視界が急激に歪む。

 それと同時に、何か潰れるような気持ち悪い音が聞こえてきた。

 そうか、ぶつかったか。

 不思議と俺は冷静になれていた。

 そのまま、体が浮き、俺は後ろへと飛ばされていく。

 その時に、萌乃の顔が見えた。

 呆然としていた。当然だろう、目の前で人が轢かれたんだから。こんな状況で冷静でいられる人なんか、自分だけだろう。

 そして、地面へと叩きつけられた。

 体を動かそうとしても動かない。とにかく、全身痛くてたまらなかった。

 意識も朦朧としてくる。もうダメか。

 視界が狭まっていく。もうちょっとこの景色も見ていたかったなぁ...

 狭まっていく視界に、一瞬誰かが映る。

 誰かはもう分かっていた。萌乃だ。

 その目からは涙が流れ出ていた。

 何か喋っているようだったが、何一つとして聞き取れない。

 きっと、死なないでとか言ってるのかな?

 でも、その願いは叶わないよ。


 ごめんね。


 口が動いたか、喋れたかわからないが、そう思いながら、俺の意識は消えた。

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