七十九幕:無守無力
目を疑った。目をこすってから、改めて前を見る。だが磔にされたリルは変わらずそこにいる。
「あれ、目が……幻覚が見えるや……なあ龍神、リルがどこに行ったかわかるか?」
聞きながらも目をこすり続ける。目を細めたり、見開いたりしても、リルの姿が消えることはない。
『小僧、なくなったものにすがるな。……あいつはもう駄目だ。現実を見ろ』
龍神の言葉を聞いて瞬間、目に大量の涙が溢れてきた。
リルが、死んだ。守るって誓ったはずなのに。自衛に精一杯だった。そんな弱い奴が誰かを守るなんてよく言えたもんだ。
エリナが死に、喬が廃人となり、そしてリルが死んだ。そして城の者や城下町の住人たち、彼らと共に暮らしていた龍もたくさん死んだだろう。
この一件でジュペンの人口の大方が死んだだろう。助けるべき人がそんなにいたのに、助けられなかった。そして、俺の見た中で唯一無事だったリルすらも守れなかった。守りたい。しかるべき時に、しかるべき人を守れる。そんな力が欲しい。そのためなら命を悪魔にでも差し出そう。数多くの能力はあれど、人を生き返らせるなんて因果を捻じ曲げるような能力は存在しないだろう。
それなら。俺のせいでリルたちが死んだこんな残酷な世界になんていたくない。そうだ、俺がこの世界に来たように、別の世界に転移すればいいんだ。でも、それを実行した瞬間、俺は逃げ出した弱者と言われるだろう。だけどもうそんなものはどうでもいい。もう心身共に疲れたんだ。とりあえずは神様のところに戻ろう。俺一人じゃ別世界への転移法がわからないしな。




