七十八幕:闇堕金龍
「ありがとね、龍神さん。おかげでばっちり目が覚めたよ」
『何のことだ。我は自分の龍生論を語っただけだ』
ぶっきらぼうにそう言って、再び剣戟を振るい始める。恥ずかしがりやがって。つい笑みがこぼれてしまう。駄目だ、浮かれてたら簡単に命を散らすことになってしまう。せっかく腹を括ったばかりなのに、直後に甘い考えで死ぬのは勘弁願いたい。
「……よし!」
一つ、深呼吸をしてから不可視の剣を強く握りしめる。今ならなんでもできるような気がする。
「う、らああああ‼」
雄叫びをしながら、悪龍目掛けて突っ込んでいく。龍神も左腕で戦っている中での行動だったが、今の俺らは文字通りの一心同体。俺が龍神の動きを顧みず特攻し、龍神が俺に合わせて攻撃、援助をする。今から何をするのか、意識を共有しているが故にできる連携。一見危なっかしい策に見えるが、この連携は目に見えて成果をあげていった。
「よし、これであと一匹……速攻で決着を---」
悪龍の最後の一体。黒く染まってこそいるが、一部金色の鱗が見える。そしてこの龍を俺は見たことがある。
「現龍神……いや、龍輝……‼」
そう言えば、俺が精神世界にこもっている間にアルスが何か言ってたような……
『記憶を捏造したり、体を作り変えることができる。あいつはそう言っていた』
そうだ。それでこんな姿に……でも、まだ黄金の鱗が残っているということはもしかしたらまだ完全に染まってないのかもしれない。
「龍輝!目を覚ませ龍輝‼」
相手が兄弟とわかっているのに、斬ることなんて俺にはできない。たとえ望みがないとしても、俺は龍輝の名を叫び続ける。
「龍輝!龍輝!俺だ、龍也だ!お前が俺のことをどう思っているのかわからない。だけど、俺はお前といて楽しかった!親友だと思っていた!だから、俺はお前を攻撃するなんてことはできない!だから、どうか……目を覚ましてくれ、龍輝‼」
渾身の思いの丈をぶつける。だが、それに反応することなく鉤爪を振り下ろす。
『何をやってるんだ!あいつはもう戻らない、もう小僧の知ってるあいつじゃないんだ!早く倒さないとこちらがやられるぞ!……もういい、小僧、お前がやらんのなら我が奴に引導を渡してやる』
そのまま精神世界へと引きずり込まれ、龍神が龍神を狩る姿を捉えた。なんで、なんでこんなことになったんだ。ああ、すべてはあいつが悪いんだ。アルス。あいつさえこの世からいなくなってしまえばいいんだ……‼
そう強く願うと、視界が暗転した。
気付くと、目の前には周囲に飛び散った大量の血と、黒く染まった黄金龍の亡骸が横たわっていた。
アルスは、どこだ!
周囲を見渡すが、アルスの姿は見当たらなかった。
それだけじゃない。
少し先の殿の間。そこに磔にされてるリルの姿があった。




