幕間:過去回想捌
「え、何⁉何があったの⁉」
周囲の人たちの奇怪の視線が突き刺さる。とにかく音を止めないと!髪飾りを取り、手で包んで極力音が漏れないようにする。だがさすがに気休め程度の音量差しかなく、周囲に響くほどの音量で鳴り続ける。
とにかくここから離れないと。髪飾りを両手で包み、外に向かって走り出す。人がいないところを目指し、ひたすら走る。
遠く、とにかく遠くへ。周囲を見渡すと、少し行ったところに小さな山が見える。あそこなら人はいないだろう。そこめがけて再び走り出す。
山の少し深い森の中。さすがにここらに人はいないだろう。それにしてもまだ髪飾りのサイレンは鳴り続けている。
「まったく、なんなのこのサイレン……」
「それはあなたが禁忌を犯した証拠ですよ」
独り言として放った言葉に、答えが返ってきた。振り向くと、そこには見覚えのある美青年がいた。
「アポロンさん……どういうことですか?禁忌って?」
「そのままの通りですよ。身分証は身分を示す道具としてだけでなく、禁忌を起こした際に僕らに伝達する発信機にもなっているんだ。そして今君は禁忌を犯した。そのサイレンが鳴っている以上、言い逃れはできないよ」
身分証にそんな機能があったのか。それにしても何か禁忌を犯したか?ここに来て、サイレンが鳴るまでにやったことで禁忌に反しそうなものは……
「人間への、記憶の改ざん?」
「なるほど。まあもっと細かく言えば神以外の人間に対する直接的干渉、だね」
「でも、必要なことだったんです!先代龍神の件を、皆が納得するような結果にするためには、仕方のない措置だったんです!」
「はぁ……話はあとで聞くから、とりあえずついてきて」
言われ、アポロンのあとについて歩き出す。森を抜け、突然明るくなったかと思うと、そこは人間界ではなく、神界……神王の間だった。




