六幕:決闘開始
決闘はあと一かニで終わる予定です。
エリウスと青龍の上に乗ってる事に気付いた俺とリルは、すぐさま降りる。
「貴方達……周りに人がいないからいいものの、こんな痴態を晒させておいて、ただで済むと思っているのかしら?」
おそるおそるエリウスの方を向く。すると、額に青筋を浮かべている。お嬢様系キャラってここまでして世間体気にするんだな……俺の中の評価はだだ下がりだけど。リルも怖がって「ご、ごめんなさいぃ……」って震えてるし。
「まあいいですわ。早く決闘を始めましょう。とっとと終わらせて差し上げますわ」
「う、うん……ピィ、がんばろーね!」
「ピィ!」
当然だ。この勝負は絶対に負けたくない。
「ルールはどちらか片方が先頭の続行が不能になった方の負け。龍使いの補助は認められるが、龍が龍使いに直接的な攻撃した時点で攻撃した方の負け。大会における最も基本的なルールですわね」
へえ、龍同士の決闘の大会なんてもんがあるんだ。少し面白そうだな。見る専門だけど。まあエリウスを攻撃する理由なんてどこにもない。狙うはあの感じの悪い青龍、あいつのみだ。
「そうですわね……では、この木の棒が地面に落ちたらスタート、ということで。行きますわよ」
そう言って、木の棒を天高く放り投げる。木の棒が落下し、地面に着く直前。
「頑張ろうね、ピィ」
リルの声。わかってるさ、絶対に勝ってみせる。
コトッ。木の棒が地面に落ちた。直後、俺は他には目もくれずに青龍に向かって飛び出していた。
人間時代でも喧嘩なんてまともにしたことなんかない。昔いじめられてたおかげで少しはタフになれたとは思うけど、戦闘のセンスなんてものはあいにく持ち合わせていない。それこそ龍の闘い方なんてもってのほかだ。だが、攻撃をしないと勝つことなんてできない。だから、俺はこの青龍を西山に見立てることにする。
ああ畜生。あいつのことを思い出したら俄然腹が立ってきた。この怒りをそのまま青龍にぶつけてやればいい。突進しながら、右脚を振りかぶる。
「ピィ!ストップ、ストップ‼」
直後、リルの叫び声が聞こえてきた。体の重心を前に向けてるせいで急には止まれなかったが、羽根を広げ、パラシュートの要領でなんとか静止する。
何事かと思い、周囲を確認する。すると、青龍へと攻撃するために俺が踏み込んだ直線。その途中にエリウスが入り込んできていた。
「ちっ」
なるほど、とにかく勝ちたい、ってことか。俺がこのまま突進していればエリウスを攻撃していた。そうすれば即刻俺らの負け。そうすれば簡単に勝負を決することができる。厄介なルールだ。
これからは攻撃する際、エリウスの立ち位置にも意識を向けてないと駄目ってことか。だが、それは大部分をリルが行ってくれるだろう。それならエリウスに向ける意識もある程度、で充分だ。
そう思い、青龍の方に向き直る。その時、ある作戦が脳裏に浮かんだ。やるだけやってみるか。その場で一呼吸おくと、羽根を羽ばたかせ、その場に飛び上がった。
そして、青龍に向かって、再び突進する。
今度はエリウスは邪魔してこなかった。そして、青龍も軽々と避ける。結果、俺の体は青龍がいた場所の後ろにある木のもとへと衝突する。そして、その衝撃で辺りに砂埃が舞った。
「この銀色トカゲ、考えなしの馬鹿ですわね」
勝利を確信したのか、そう言って高笑いしている。
だが、数秒後、その高笑いは悲鳴へと変わっていた。
青龍の後ろにあった木は、かなり朽ちていたのだ。
そんな木に衝撃を与えると折れるのは必然だろう。だが、俺はすんでのところでその木をかわし、わざと砂埃をおこした。その砂埃で姿を隠しながら砂の上を滑るように木の反対側にまわると、青龍のいる方に向かって、木ごと体当たりをする。そして木はそのまま倒れていき、青龍の上へとのしかかった。
「ア、アレク‼︎」
朽ちている以上重さもあまりなく、そこまで痛みもないだろうが、不意はつけただろう。
「ピィ!ピャアアアアア‼」
さあ、こっからが本番だぜ、青龍!