五十六幕:悪龍討滅
エントランスルームに着くと、先ほどの悪龍は煙のように跡形もなく姿を消していた。アルスが連れて帰りでもしたのだろうか。まあ理由はなんであれ、あの悪龍がいないのは好都合だ。さっさとここを出ないと。エレベーターに乗り込み、ボタンを押す。
どうやらこのエレベーターは下から上がるときはパスワードはいらないらしい。すぐにエレベーターは上昇を始めた。
上昇が止まり、部屋に出た瞬間大きな揺れが起きた。
「うわっ⁉地震か⁉」
「多分……さっきの悪龍が暴れたせいだと思う。とにかくこの家から出ないと。この家、崩壊すると思う」
「は?」
家が壊れる?確かに家の地下が崩れたら自然と上にある家も崩れる。確かにその理屈はわかる。だが、どうしても頭がそれを信じたくなかった。
「信じたくないのはわかる。でも、命が惜しいなら早く外に!」
神様に促され、外へと出る。振り向くと、俺が十七年間生きてきた家が。地中深くへと飲み込まれていく。
「あ……あぁ……」
体から力が抜け、膝から崩れ落ちる。
俺の中で、何かが壊れていくような感覚に陥る。生まれて、物心がついた頃から住んでいた家。それが壊れていく様を見届けるのは、精神的に大きなダメージがある。
そんな俺を時間がないと急かすことなく、慰めだろうか何も言わずに肩に手を置いてくれた。
「ごめん、時間取らせて……行こうか」
「いいけど、もう大丈夫なの?」
心配そうに首をかしげる。俺はそれに強く頷いて答えた。
「大丈夫だ。ここでずっと感傷に浸っている暇があるなら、とっととその元凶をぶっ壊した方がいいだろ。俺もそろそろ我慢の限界だ」
「そっか、君が大丈夫って言うのならいいんだけど」
神様から顔を背ける。今、涙を流している姿を見られたくなかったから。
服の袖で涙を擦りとると、声高らかに宣言する。
「それじゃ、悪龍をこの世から一匹残らず討滅しますか!行きますよ、神様!」




