五十三幕:運搬役君
神様が複雑な陣を地に描くと、二人でその中に入る。どうやら、この陣は転移の能力を補助する効果を持っているらしい。
「それじゃあ龍也君、お願い」
なんだか最近、ただの運搬役に成り下がった気がするんだが……そんな愚痴を心のうちに留めつつ、はいはいと返事をして転移を始める。
まあ、口に出さないところで神様は心が読めるからあんまり意味はないんだけど。現に今、神様が笑いをこらえている。畜生、反論したいけど事実だから言い返せないのがムカつく。
「ふう、本当便利だよねこの能力。ありがと、運搬役君♪」
「どういたしまして、一回しか能力が使えない神様!」
嫌味ったらしく言ってやる。すると、顔を赤くして駄々っ子のように反論してくる。
「違うもん!あの時は疲れてたんだって何度言えばわかるの⁉まったくもう、行くよ!」
逆ギレした神様は、ずんずんと目的地である研究所へと歩を進める。それでも外見は俺の家なのだから、少し変な感じがする。
今まで普通に毎日を過ごしていた我が家が、こんなにも懐かしく感じるなんて。親父と、母さん……と、義理の母さんだったか。の三人で暮らしてた家。凄く温かくて、居心地がいい家。そして、リルの家。両親共働きで城内まで働きに出ていて、ほとんど帰ってこない。ほとんどリルと二人暮らしだったけど。リルは優しくて、常に気にかけてくれていた。……あれ?俺は人間なんて、って割り切ったはずじゃなかったのか?なんでこんな……
「それで、龍也君?このエレベーターのパスワードを教えてもらいたいんだけど」
と、考えごとをしていると、突然神様が顔を覗き込んでいた。
「うわっ⁉驚かすなよ神様……」
「別に驚かすつもりなんてないよ?君が反応しなかったせいだし。それよりも早くパスワードを教えておくれ」
ため息をひとつ吐くと、ボタンの前へと立つ。確か、パスワードは……
うろ覚えだが、前回アルスが押していただろう番号を思い出し、パスワードを入力していく。打ち終わると突然ガコン、と大きな音を立てて、降下し始める。
よかった、ちゃんと動いた……これで少しは名誉挽回できただろうか。ドヤ顔で神様の方を向く。が、神様は何か考え事をしているのか、下を向いていた。
一分ほど経過した頃、エレベーター内が停止する。着いたのだろうか。ゆっくりとドアが開く。するとそこにあったのは壁でもエントランスルームでもなかった。
代わりに、たくさんのがれきと、そのがれきの山の頂上に立ち尽くす黒い鱗を持った龍がそこにいた。




