五十幕:救出物語
「誰を始末するだって?」
どこか嬉しそうな声。振り向くとそこには、金色の鱗を全身にまとった龍がいた。
「はぁ、ヒトガミ。なぜそこまでして俺の邪魔をしたがる?龍也にだって、俺が先に頼み事をしたんだ。横やりを入れないでもらいたいね」
「そっちこそふざけないでよ。お前がやろうとしてることは、人間という種族そのものに喧嘩売ってるようなもんなんだぞ。お前たちがそんな害悪な計画を止めれば僕はなにもしないさ」
「いまや龍也は龍族となったんだ。ヒトガミには関係のないことだろう。ほら龍也、行くぞ」
そう言って俺を鉤爪でひょいと持ち上げ、背中に乗せる。
「やめろ、おろせ龍神!俺はお前の下になんてつくもんか!」
なんとか龍神の背中から降りようと暴れるが、尻尾で首元を叩かれ、意識を手放してしまった。
「まったく、昔から変わってねえんだな。少しは成長してほしいもんだぜ」
怒りを込めて、だがどこか懐かしむような口調で、気絶した龍也に話しかける。
「龍神。その子はもう君の知ってる龍也君じゃないんだよ」
神様の予想外の発言に、龍神は耳を疑った。
「こいつが龍也じゃないっていうのか?見た目に限らず、人間の時の記憶すらあるんだ。こいつを本物と言わずして何を本物とする?」
「僕は君の知っている龍也君じゃない、と言ったんだ。---僕は彼が眠っている時、彼の空間に入り込んで話をするんだ。そしてつい最近、彼は僕にこう問うた。この世界での俺の姿は人か、あるいは龍なのか、と。でも、どちらも正しくなんかないんだ」
「……何が言いたい」
神様はそれが先を促すものだと解釈し、続ける。
「彼の世界での彼の姿は肉体など持たない、魂そのものなんだ。ここまで言えば、一応神なんだ。お前もわかるだろう?」
話を聞き終わった龍神は全てを悟り、惚けていた。
「龍也……こいつは、もう死んでいると、そう言うのか?」
「僕も認めたくないけどね。でも証拠があるんだ、嘘ではないよ」
龍神はひとつ、大きなため息をつくと龍也を床におろす。
「魂だけの状態で肉体を維持できるなんてそんなの、生物の域を超えている。言うなれば、神に相当する---」
「だから、僕はずっと見張ってるんだ。それなのに龍神、お前というやつは僕の封印を勝手に解いて。自重してほしいね」
「確かに、それに関しては謝ろう。……さて、俺は残りの悪龍を滅せねばならん。故、悪龍と同刻に侵入してきたものが外へ逃げ出そうと、気付かんかもしれんな」
そう言って後ろを向くと、悪龍のいるらしい方向へと走って行った。
「じゃあな、龍也。次会う時は敵同士だ」
龍神がいなくなる際、そんな言葉が小さく響いた。




