四幕:前途多難
疲れて寝てて、こんな時間になってしまいましたが、今日の分です。
毎日更新とか三日坊主で終わるんじゃないかな、とか思ってましたが案外5日も続いて自分でも驚いています。
リルの祖父の家を出てから、他には目をくれず、一目散に家があるらしい方向へと走るリル。
俺はその腕の中で外の景色を眺めている。こんな和やかな景色を見ながら、しかもタクシー付きで無料とは。この生活もまあ良きかな。
そんなことを考えていると、突然景色が止まる。何事かとリルの顔を見上げるが、少しばつの悪そうな顔をしている。どうしたのだろう。考えていると、突然この場には似つかわしくない声が聞こえてきた。
「あらあら、リルじゃありませんの。そんな急いでどうしたのかしら?……あら?その抱えてるものはなんですの?龍がいないからってトカゲを使役するなんて、龍なしの龍使いは考えることが逸脱していますわね!」
なんだこの典型的なお嬢様キャラは。こんな辺境の村にもこんな奴いるのかよ……つーかそれよりも俺をトカゲ呼ばわりしたことが許せん。親の顔が見てみたい。
そんなことを思いつつ、声の主の方を向く。そこにはリルと同じくらいの背をした、赤髪の少女が踏ん反りがえって、立ち尽くしている。そして、足元には---青の鱗をまとった青龍。俺と似た出で立ちをしているからこいつも飛龍の一種だろうか。
「ピ……ピィはトカゲじゃないもん!ちゃんとした飛龍だもん!おじいちゃんが、将来有望な龍だ、って言ってたもん!」
おお、そうだそうだ。もっと言ってやれ。俺もリルに便乗してピィ、と威嚇する。だが、青龍はこちらを見るや否や興味がないようにそっぽを向いてしまった。偉ぶりやがって。
「そんなピィピィ鳴く鳥みたいな生き物が将来有望?それは村長も目が悪くなってきたようですわね。それとも、可愛い孫娘にできた、せっかくの龍なのにがっかりさせたくなかっただけじゃありませんこと?」
「そ、そんなことない!ピィは、強いもん!」
「ええ、ええ。そこまで言うのなら勿論、決闘を受ける覚悟がおありですわよね?もしこれで貴女が勝ったのならば、今までの非礼を全て詫び、貴女の元について差し上げます。でも、わたくしが勝った暁には、貴女みたいな一族の恥さらしには龍使いをやめていただきますわ!」
ちょ⁉それはさすがに理不尽過ぎやしないか?さっきから聞いている以上、リルには龍使いの才能がないらしい。だが、それでも龍使いをやめろなんて間違っている。ここは俺が一つ、あいつらに目に物を見せてやる!だから安心して見守っててくれ。
すると、リルは一歩後ずさり、予想外の言葉を口にした。
「……ごめん、その決闘は、受けられない」
その言葉をきいて、俺は目を丸くする。
なんで闘わないんだよ⁉こんなに言いたい放題言われておいて、引き退るつもりかよ!散々あいつにいじめられてきたんだろ⁉見返したくねーのかよ!お前には、プライドってものがねーのかよ!
だが、どんなに伝えようとしても、ピィ、という音しか発することができない。ああもう、会話ができないのがもどかしい。それでも伝わると信じて、俺はピィピィと鳴き続けた。
そうしてずっと鳴き続けていると、突然顔をあげ、俺の顔を覗き込むようにして見てくる。そして、囁くように話しかけてきた。
「今、ピィの声が聞こえたよ。こんな言われておいて引き下がれるか、って。見返したくないのか、って。私は、龍使いをやめさせられて、ピィと一緒にいられない、って考えると闘うのをためらっちゃって。でも逃げちゃ駄目だよね。ここで逃げたら、今までと変わらずに、ずっといじめられ続ける。だから、私……闘うよ」
声が、通じた?ただピィピィ、と鳴いていただけなのに。ちらりと横を見るが、あのお嬢様野郎は気付いていないようだ。そう考えるとこいつは、リルは龍の声を理解した、ってことか?この種族のことを詳しくは知らないが、もしこれが普通じゃないことだとしたら、リルはすごい才能を秘めているのかもしれない。
「エリウスさん!私、闘うよ。その決闘、受けて立つ」
まあなんにせよ、ご主人様が意地見せてくれたんだ。俺も全力で応えなきゃな!
って、何熱くなってるんだ俺は。他人に関わっても傷を負うだけだって、身をもって体感したというのに。いや、これは借りだ。リルからもらった借りを返すだけ。ただ、それだけだ。
次回はようやくの戦闘です。




