四十二幕:蒲生龍也
家に入ると、床が埃を被っていることを除けば生前と変わりない、自分の家そのものだった。
「……ただいま!」
試しに叫んでみるが、当然返事はない。リビングや親の部屋を覗くが、気配どころか血痕すらない。まるで、元からここに存在していなかったかのような。一体この世界の住人たちは皆どこへ行ってしまったのだろうか。
色々な部屋を覗いて、残りは一室のみ。その俺が暮らしてた部屋のドアノブに手をかける。
リビングのカレンダーを見たところ、俺が死んでからおよそ七年が経過していた。さすがにもう荷物も撤去され、空き部屋にでもなっているだろう。
嫌なこと考えちまったな。忘れろ忘れろ。
頭を横に振って、ドアを開ける。そこには、俺の荷物は残っていた。……が、見るも無残な姿へと変貌していた。
本棚は中ほどで折れ、本は散乱し、カーペットやベッドのシーツはズタズタに引き裂かれ、至る所に血が飛び散っていた。
「なんだよ……これ」
誰がやった?この血痕は誰のだ?もしかして家族の誰かが……いや、そんなことは絶対ないはず。でも……
目の前の光景を受け入れられず、無残な室内を呆然と見つめる。
そんな俺を現実に戻すかのように、窓をカンカン、と鋭いものでつつく音が鳴り響いた。
窓の向こうには、赤龍の姿があった。
窓に近づき、開けてやる。アルスは呆れた顔でこちらを見てきた。
「まったく……勝手に行動するのはやめてほしいですね。それにしても、その姿はなんですか?人間の姿になったりなんかして。この世界が元々人間のいた世界だからって、世界観に合わせてるんですか?」
「ちげえよ。これが俺の………ピィ、いや蒲生龍也の真の姿だよ」
堂々と、声高らかに宣言する。それを聞いたアルスは、文字通り開いた口がふさがっていなかった。




