三十九幕:草廬三顧
「お前がアルスか?リルの父親が使役してたっていう龍は、お前で間違いないか?」
冷静さを装い、挑発的に問う。アルスは急に転移したことに驚くことなく、凛とした面持ちを崩すことなく答える。
「あなた、マルクスなの?……いえ、他人の空似かしらね。それにしても、見た目も能力も同じなんて。なら、あなたでも問題なさそうですね。ああ、これは失礼。確かに、私はアルスで間違いありませんよ」
さすがに俺のことは覚えてないか。まあリルと関係あるってなって面倒なことになっても困るしな。
と、アルスが一歩、二歩とこちらに歩み寄ってくる。それに対して反射的に身構える。アルスはそれを意に介すことなく、喋り出す。
「君、名は?」
「……ピィ、だ」
「図体の割に随分と可愛らしい名前。でも小さくなれるのかな?」
余計なお世話だ。
それにしてもマルクスとは一体何者なのだろうか。俺に似てるってことは大層なイケメンなのだろう。
「それで、ピィ君。私と一緒に来て欲しいんですが」
「……は?」
状況が理解できず、間の抜けた声を漏らす。
「えっと、どういうことです?」
「私と一緒に来てもらいたいんです。他意はありません」
いやいやいや⁉他意も何も、ほとんど初対面と同然の人に一緒に来てっていう時点でおかしいでしょ!
そんなツッコミを心のうちに留めつつ、言い返す。
「それは、どういう理由で?」
「あなたの力が必要だからです。お願いします、一緒に来てください」
その言葉には、相手に有無を言わさないほどのもの凄い威圧が込められていた。それに共鳴するかのように、周囲の悪龍たちがこちらに殺意を向けている。少しでも不審な動きを見せたら、そのまま襲われそうなほど。
この時点でもう、薄々は勘付いていた。
「いいぜ。その代わり、俺の力の使い道と俺のメリットを提示してくれ。それが条件だ」
アルスが---この赤龍が、悪龍たちを指揮する、リーダー的存在だということを。




