三十八幕:慮外千万
「……!……ィ!ピィ、ピィ‼」
誰かに呼ばれる声が聞こえて、完全に意識を取り戻す。なんか、もうピィで慣れちまったな。前はあんなに嫌がってたのに。適応するもんなんだな。
どうでもいいことを考えながら、目を開く。
視界に入ってきたのは、俺の腹部に手を当てているリルと、エリナの擁護をしている喬。
悪龍は、どうなったんだろう。その疑問に答えるかのように、リルが口を開いた。
「ピィ、大丈夫⁉さっきの傷は、アルスが治療してくれたんだよ。でも、治療してすぐにどっかいっちゃったんだ。それを悪龍たちが追いかけて行っちゃったんだけど……アルス大丈夫かな」
悪龍がアルスを追いかけて行った?悪龍は噂に聞く限り破壊と殺戮を繰り返す生き物だと思っていた。目の前にたくさんの獲物がいるというのに、たった一匹のために三匹ともが同じ一匹を追いかけるのには多少なれ違和感を感じる。まあ、今はそれよりもやらなくちゃいけないことが……起き上がり、周囲を見渡す。
……少し離れたところのほうがいいか。
どうしたの?と問うリルを尻目に、少し離れた森の中に飛んでいく。
森の少し深いところまでくると、能力を発動する。
---アルスとアルスの周りにいる悪龍よ。この場に。
直後、目の前にはリルの家の屋根で見かけた赤龍と、先ほど戦った三体の悪龍が現れた。だが、現状に目を疑わずにはいられなかった。その四体の後ろに、ざっと数十体はいるだろう、悪龍の集団がたむろしていた。




