二十五幕:色魔騎士
「ごめんなさい、あなたがどのような心持ちで言ってるのかわかりませんが、私がピィ、この子をどうしようと私の勝手だと思うんですけど」
聖騎士の発言をばっさりと切り捨てると、踵を返して、歩き出した。
直後、目の前が真っ白になった。
なんだ?この感じは空間転移?だが、俺は空間転移なんて使ってない。第一、今日の分はもう使っちまったしな。なら、誰が?
視界が戻ると、甲冑をかぶった騎士に抱きかかえられるリルと、その腹の上に俺はいた。
「釣れないですね。少々手荒ですが、このままついてきてもらいますよ」
こいつ、聖騎士か。てことはこいつ、空間転移を使うことができるのか⁉
『青龍‼』
叫び、助けを求める。
『任せろ』
一言、そう呟いて巨大な白龍に向けて水圧砲を放つ。
水圧砲はみるみるうちに白龍に吸い込まれていき……消失した。かと思うと、その水圧弾はいつの間にか上昇を始めていき、破裂した。
「危ないなあ、まったく」
いくつもの水滴を浴びながら呟くと、手綱を引いて、それに呼応するように白龍は飛翔した。直後、視界を失う。次の瞬間には、空に二人と二匹の姿はなくなっていた。
「手荒な真似をしてごめんね。でも、君が白龍を持っている以上、見過ごすわけにはいかないんだよ」
甲冑をとった聖騎士は、青色の髪をなびかせながら、キメ顔をしてそう言った。
「まあ、私も城に行く予定があったので、その点では感謝します。ですが、あなたとお話しする気はないので、これで」
俺を腕に抱えてそう言うと、城内へと向かう。その後ろには、聖騎士。先ほどいた龍は消え、代わりに聖騎士の頭の上にちょこんと座る白龍がいた。
城内の廊下を右へ、左へ。だが、まだ聖騎士は後ろにいた。
「ついてこないでもらえますか?」
ついに我慢の限界がきたのか、リルが切歯扼腕しながら、強く言う。だが、
「僕もこっちに用があるんだ」
そう言って、はにかんで見せる。なら、お先にどうぞ、と先に進むように促すと、もっと君の後ろ姿を見ていたかったけど、などと愚痴をこぼしながら前を歩く。
リルはというと、なんか寒気がする、と呟きながらガクガクと震えていた。
結局、王室まで一緒だった。
王室の前にいる近衛兵が、こちらを見るなり敬礼をする。
「アヴル様、リル様、中で皆様がお待ちしております。どうぞお入りください」
聖騎士の名前、アヴルって言うのか。そんなことを思いつつ、中に通される。
「おお、二人とも一緒だったのか」
中に入るなりそう歓迎してくれたのは、一度は捕まった、リルの父親---ライネックだった。ライネックはリルとアヴルを交互に見ると、口を開いた。
「リルは手紙を読んだからわかると思うが、東国でアルスが見つかった。そして、話し合いのもと、保護をする。俺は別件で行けないから、知っている人がいた方がアルスもいいと思って、お前を呼んだんだ。だが、さすがに一人じゃあ危ない。そこでアヴル、君にリルの護衛を頼もうと思うんだ」
「了解しました。---よろしくね、リルちゃん」
さすがは龍騎士団長というところか。前と代わり映えしないカリスマっぷりで命令をくだしている。
リルは、最初固まっていたが、ことを噛み砕いて理解すると、素っ頓狂な声をあげた。
「こいつと一緒ぉ⁉」
リルの悲痛な叫びが、王室内にこだまする。
ツンツンしてるリルも可愛いですよね!




