二十二幕:一新紀元
第一章の始まり始まり〜、です。
村に戻ってからおよそ三ヶ月。村の暮らしに慣れ、滞りない生活を送っている。
あれ以降、事件は何も起きていないし、アルスらしい赤龍も見かけていない。事件がないことはいいことだが、アルスが生きている、という尻尾を掴んだのに、探しに行けない、とリルは思ってるのだろう。だが、リルは心配されるようなことは笑顔の裏に隠してしまう。思い詰めすぎて精神が崩壊しないよう願うばかりだ。
「ただいまー!」
と、いつもの日課で外を走っていたリルが戻ってきた。リルいわく、龍使いであるからには、体力がなくっちゃ、らしい。
「ピィ、いい子にしてた?」
そう言って、頭を撫でてくる。
ちなみに、リルにはまだ俺の正体はばれていない。
俺は、元は人間だったが、とある事故のせいで存在と住む世界が変わる、といった面倒くさいことに巻き込まれてしまったのだ。おかげで今では白龍として、龍生を歩んでいる。
「ねえピィ、外に散歩にいこっか」
額についた汗をタオルで拭きながら、微笑みかけてくる。
散歩か……散歩に行ってあの面倒な事件に巻き込まれたんだよな……まあ、そんな稀なことはそうそう起こらないだろう。快く、ピィ、と返事をする。
その返事を聞くと、タンスに向かって歩いていく。
「汗でベタベタしてるから、着替えちゃうね。ちょっと待ってて」
そう言って、さっきまで来ていた麻布の服を脱ぎ出す。いかんいかん、いくらガキの着替えとはいえ俺だって男だ。反射的に目を逸らしてしまう。
落ち着け。意識するな、俺!
「お待たせ、いこっか。……どうしたの?」
振り返ると、いつも通りの民族衣装のような服を着たリルがいた。
その姿に安堵し、一緒に家を出る。
村を歩いていると、仲良くなった農家さんがトマトのような果実をくれたり、通りすがりのおばあさんに龍のお菓子らしい、ビーフジャーキーのようなものをもらったりと、なかなか楽しい。
やはり、滅多に事件は起きないな。心の中でそう信じて疑わなかったから、ずっと楽しんでいた。
だが、それは過去の話。
村長……リルの祖父の家に着くと、持ち前の怖い顔を物凄い形相にして、詰め寄ってきた。
「リル、心して聞け。東方の国で、アルスが捕獲された。そして、国から直々に、リル・ウサルクスも、リルも一緒に来い、との直令が来た」




