二十幕:生死肉骨
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俺は今まで、誰にも褒められたことがなかった。今まで、他人に勝るものなど何一つとして持っていなかった。そのくせ負けず嫌いなもんだから、悔しくて、悔しくて。何か一つでも、他人に勝るものがあるかもしれない、って色々なことに挑戦した。でも、何を試しても、普通以下。他人に勝ることなんてできなかった。特別昔から何かやってきたわけでもなかったから、昔から積み重ねてきた人に勝てる見込みなんてないって、頭では理解していたのに。諦めたくなかった。でも、三年経って、もう無理なのか、と悟った頃に、交通事故に遭った。結果、龍となり、俺が昔から強力な能力を秘めていることを知った。そんな強大なものを秘めているんだったら、他のものが駄目でもいい、そう思えた。まあ、もし交通事故に遭わなかったら、この能力を知ることがなかったのなら、自分の人生を嘆いたかもしれないが。
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ここだ。昔のことを考えているうちに、大量の龍がいるであろう部屋の前に到着した。
ドアに向かって吠え続けていると、後ろからついてきたリルが、不思議そうに寄ってきた。
「ピィ、どうしたの?ここに何かあるの?」
ピィ、と短く返事をすると、リルが恐る恐るドアを開ける。
そこには、大量の龍が、口と腕を結ばれて閉じ込められていた。その中に、予想通りエリナの使役する青龍の姿もあった。
「アレク‼」
青龍の姿を捉えたエリナが、一目散に駆け出し、抱き上げた。
「ごめんなさい、わたくしがちゃんと見ていなかったばかりに……もう離しませんわ」
そう言って、拘束を解いている。初めて会った時は必要ないとか言ってたけど、仲直りしたんだな。良かった良かった。
『おい、銀トカ……もとい、白龍よ。俺はお前に龍族の面汚し、などと言ってしまった。本当にすまない。そして、感謝している。罵声を浴びせられた相手の主人のために動いてくれて。この借りは一生償おう。お前は俺の英雄だ』
その声に続いて、他の龍も頷く。
随分と過大評価されたもんだな。別に助けるなんて大業を成したつもりはないんだが。どちらかと言えば、覚醒した俺の能力を使いたくて使った結果なんだが。まあ、相手は助かった、と思ってくれてるんだし、いいか。
『じゃあ、さっそく頼みごとを受けてもらいたいんだが、いいか?』
『我らが英雄の頼み、聞き届けないわけにはいかないよな?何なりと申し上げてくれ。戦闘からマッサージまで、なんでもござれだ』
俺が問うと、皆一様に頷く。ああそうか、口縛られてるから喋れないのか。それにしても龍という種族は情に厚いのか。きちんと恩を返そうとしてくれる。龍はプライドが高いというが、本当なんだな。
『この上の階に、今回の件の首謀者がいる、と俺は踏んでいる。だが、こんな大掛かりな事を興した奴だ。一筋縄ではいかないと思う。そこで、君らの力を借りたいんだが。引き受けてくれるだろうか』
『言っただろ。どんな頼みでも引き受けるさ。その程度、お安い御用さ』
なんと頼もしいことだろうか。とりあえず、全員で皆の拘束を解いていく。
拘束を解き終わり、全員が整列している。そして、先頭には俺。
『皆、準備はいいな?乗り込むぞ!』
『おおおおおおお‼』
何十匹という数の龍の雄叫びが辺りにこだまする。リルとエリナは思わず耳を塞いでいた。
……よし、いくか。
---我が軍勢よ。一層上の首謀者がいる間へ。
祈り、前回同様に辺りが光に包まれた。
気付くとそこには、きらびやかな装飾が施された部屋の中にいた。
目の前には机があり、その向こう側で椅子に座って外を眺めている人の姿を捉えた。
こいつが首謀者か。威嚇しようと、その人影に向けてうなる。
「ああ、なんだかギャーギャーうるさいと思っていたらお前たちか。どうやら助けが来たみたいだな。まあもっとも、その救世主は俺にとってあまり嬉しくないようだ」
この部屋に来てから、リルとエリナが青い顔をして、小刻みに震えている。どうかしたのだろうか。
「大人しく宿にいろと言ったはずだが?リル・ウサルクス……我が娘よ」
そう言い、こちらを向く。そこには、リルと同じ黒色の髪を持ち、どこかリルの面影がある顔持ちの壮年男性の姿があった。




