十八幕:吉凶禍福
「……え」
突然、頭が真っ白になった。
「俺の同期からアルスに酷似した赤龍を見かけた、という情報をもらってな、どうやら極東地域を転々としているらしい。王もアルスには世話になった、とこの件のために部隊の編成を承諾してくれた。俺がさっき言ってた任務ってのもアルスの捜索だ」
駄目だ。理解が追いつかない。だが、アルスがまだ生きている、ということがわかっただけで充分だった。
「極東?どこにいるの?詳しく教えて。私、アルスの元に行ってくる」
「おいリル正気か⁉︎まずそこまでどうやっていくんだ?その上、ここまで来た本来の理由を忘れたか?どっちも俺が解決してやるから大人しく家で待ってろ。必ず解決してやるから」
まっすぐな目をしてこちらを見る。その目には必ず任務を達成する、という強い意志が表れているような気がした。
部屋を出て、ライネックの部下に連れられて、宿へと向かう。宿に着くまでずっと、アルスのことを考えていた。
アルスは、凄く優しくて、危なくなったら助けてくれて、いつも一緒に遊んでくれて。私が生まれた時から、ずっと一緒だった。母いわく、いつもアルスが私のことをあやしたりしてくれたんだそうだ。私が初めて話した言葉もアルス、だった。外で遊ぶようになって、私がいじめられてる時、助けてくれた。
龍と言葉は交わせねど、意志の疎通が出来ていたと思う。だからこそ、わかる。あんなに家族想いのアルスが帰ってこないということは、何かやらなくちゃいけないことがある、ということだ。だから、まだ帰ってこれない。用が済んだら、帰ってくるはずだ。私は、その時を待つ。
宿に着き、宿主に予約している旨を伝えると、一番奥の部屋に案内された。
「こちら、当宿一の特別ルームでございます」
そう言い、部屋に通される。中には、ひときわ大きなベッド。噴水広場が見え、子供の元気に走り回る声が聞こえるバルコニー。部屋の真ん中には大きな長方形の机が置いてあり、別室にはお風呂まで置いてある。今まで宿に泊まったことはないが、明らかに高級だ、というのは一目でわかる。龍騎師団長、という肩書きは伊達じゃないんだな。
ここまで連れてきてくれた兵士に一言お礼を言い。宿主から鍵を受け取る。ドアを閉めると、ベッドに飛び込んだ。
「凄い……ふっかふかだ……!」
リルの顔が幸福感で満ち溢れ、目をキラキラさせている。対してエリナは、自宅が金持ちということもあってか、さほど驚いた様子はなく、近くの椅子に腰掛ける。
その時、突然ピィが飛び起きた。そして、強く、大きな声でピィ、と鳴いた。
直後、ドン、と爆発音のようなものが辺りに鳴り響いた。




