十四幕:往返徒労
城塞都市まで最短ルートで行こう、と俺が二人を掴んで飛ぶこととなった。それにしても、この小龍の体格で少女とはいえ二人を持ち上げるのは中々骨が折れる。
下に気を向けると、リルとエリナが仲良さそうに談笑している。この一日で随分と仲良くなったもんだな。そんな簡単に人を信用していつか後悔しても、俺は知らないが。
「ピィ、ピィピィ!」
飛び始めておよそ三時間。もうすぐ城塞都市に到着する。鳴き声で二人に通告する。リルは眠っていたようだが、エリナはずっと城塞都市を見据えていた。
城塞都市の周りには、種様々な龍が飛び回っている。
「なんか、物々しいね」
飛び交う龍を見て、リルが少し怖気付いたように言う。
「あそこのどこかにアレクが……待ってなさい、今助けてさしあげますわ」
逆にエリナは、覚悟を決めたような顔をしている。二人とも準備は良さそうかな、そう思い、跳ね橋の付近に着陸する。
さすがに三時間ぶっ通しで飛び続けるのは疲れる。その上人二人を持ちながら、だ。もうしばらくは動きたくない、そう思ってリルの腕元に行き、抱きかかえてもらうと、どっと疲れが押し寄せてきて、すぐに眠ってしまった。
「寝るの、早いですわね」
ピィが寝る様子を見ていたエリナが、驚きながら言う。
「この子には長時間運んでもらったから、疲れてるんでしょ。ありがとうね、ピィ」
そう言って、喉元を撫でてやる。すると、小さくピィ、と鳴き、気持ち良さそうにしている。
とりあえずは中に入ろう、と跳ね橋にいる兵の元へと赴く。
「すみません、ここに入りたいのですが、跳ね橋を下ろしてもらえませんか?」
兵にそう頼むと、厳しい目をして、こちらを睨む。
「最近、この城塞都市アルテアに侵入し、龍を盗む輩が出ていてな。この国の住人か正当な招待状を持っている者以外、この国に入ることは禁じられているのだ」
そう、きつく言い放つと、何事もなかったかのように、見張りの仕事に戻る。
「なんか、感じの悪い人ですわね」
エリナが軽蔑の視線を送っている。
「まあそれが仕事だし、仕方ないよ」
突然、龍の鳴き声が聞こえてくる。何かと思って後ろを向くと、そこには龍に乗る騎士団---ドラゴンライダーの一個隊が、こちら、否城塞都市に向かって飛んできていた。
すると、リルはそのドラゴンライダーの集団の中に、ある人物を見つける。
「あれ?おーい!おとーさーん!」
部隊の最後尾にいたドラゴンライダーが、近くの騎士に耳打ちすると、方向転換して、リルの元へと降下してくる。
「リル⁉こんな遠いところまで何しにきたんだ⁉」
仮面をはずし、驚いたように話しかける。彼こそ、リルの父親、ライネック・ウサルクスその人だった。




