十二幕:君子豹変
昨日と一昨日の分として気持ち多めに書きました。
リルが朝食を用意している間、俺は家の中を見て回っていた。やはり異世界か。日本にないものがたくさんある。逆に電子機器のようなものが一つもないのを考えると、そこまで文明が進んでいないのが窺える。
「ピィ、ご飯できたよー」
呼ばれ、机へと向かう。席に着くと、倒れた額縁のようなものが目にはいった。テーブルに降りて額縁を持ち上げる。体が小さいと、ものを持ち上げるのが大変だから不便なんだよな。
見ると、先ほど屋根の上にとまっていた赤龍に似た龍が描かれてた。
「ああ、倒れちゃってたんだね。ありがとう、ピィ」
そう言いながら壁に額縁を立てかける。肉がはいった皿を俺の前に出すと、リルは懐かしそうに語り出した。
「その龍はね、私のお父さんが使役してた龍なんだ。すごくかっこよくて、私の憧れだったの。……あ、別にピィが駄目っていうわけじゃないよ⁉ピィのことは大好きだし!---そうじゃなくて、 アルス……この龍は、お母さんみたいな存在なんだ。いつも私たち家族を気にかけてくれてたし。でも、半年くらい前に、悪龍討伐の任務に出た時に、お父さんを守るために悪龍に特攻していって。それから見つかるどころか、目撃情報すらないけど、私はまだ生きてるって信じてる」
そうだったのか。でもこの瓜二つな容姿にリルたち家族のことを知っているんだ、あの赤龍がアルスだ、ということは間違いないのだろうが。果たしてこれを伝えるべきなのだろうか……というか、言葉が通じないから教えようがないのか。本当にもどかしい。
朝食を食べ終わり、昨日の続きということで村を散策する。そういえばエリウスはどうなったのだろう。負けたら謝ってリルの元につくとか言ってたけど。俺が倒れてる間に全部解決したのだろうか。
「リル様ああああ‼」
そう思っている矢先。エリウスがリヤカーを引っ張ってこちらに走ってくる。
「リル様、お出かけでしょうか!目的地を教えてください!私が連れて行きますので!」
そう言ってリヤカーを指差す。人力車かよ。てか本当俺が倒れてる間に何があったんだ。お嬢様プライドどうしたよ。
「いやいいって。ピィに村を案内するだけだから……」
リルも少しひいている。まあ当然といえば当然だが。一日でこの変わりようはどうかと思うぞ。
「なるほど。ではわたくしもお供致します!」
この調子だと何言っても無駄だろう。リルも俺と同じ考えらしい。渋々了承していた。
結局、リヤカーに乗ることになった。リヤカーには青龍も乗っていて、乗る時に目があったが。俺を一瞥するとそっぽを向いた。
その態度に多少いらついたが、襲ってこないよりかはマシか。そう割り切って、リルの頭にとまる。
ここは見晴らしもいいし、結構落ち着く。難点としては、成長したら乗れなくなることくらいだ。
改めて村を見ていると、家の造りこそ違えど、水車があったり、薪の山があったりと、昔の日本に酷似している。一方エリウスは、全力疾走しながら、あそこでは薬草売ってますよ!あそこでは野菜を売ってますよ!と一言で説明していく。
「ちょ、と、止めてえぇ……おぇ……」
スピード出てる上に砂利道でガタガタしているからか、ものすごいリルが酔っている。
リルのストップにエリウスは即座に反応して急ブレーキをかける。
「どうしましたか⁉揺れて気持ち悪いんですか⁉︎少し待っていてください!」
そう言って、近くの野原に走って行き、二輪ほど花を摘んで戻ってきた。
「リル様、この匂いを嗅いでください、落ち着きますよ」
そう言い、花をリルの顔の近付ける。すると、みるみるうちにリルの顔色が良くなっていった。
「落ち着きましたか?この花は粛清花と言って、匂いを嗅ぐと落ち着くんですよ」
へえ、そんな花があるんだ。結構便利だな。
「酔わせてしまったお詫びに、私の秘密のスポットを教えて差し上げますわ!」
そう言って、またリヤカーを引き始める。
こいつ今、素に戻ったよな。
「着きました、ここですわ」
リヤカーに揺られて約十分。目的地に着いたらしい。が、森の中である。
「ねえ、ここに何があるの?」
リルが訝しんで問う。だが、付いていらっしゃい、と言い残し、リアカーを置いて先へと進んでいった。
こんなところで置いてかれて迷子にでもなったらたまったもんじゃない。急いでリアカーから降りると、エリウスの後を追いかける。
森を抜けると、目の前には広大な世界が広がっていた。村の全貌はもちろん、遠くに要塞のようなものも見える。この村以外にも街があるのか、と改めて実感する。
「ここは夕日や夜空も綺麗に見えるし、わたくしのお気に入りなんですのよ」
胸を張りながらそう言う。だが、それを許容できるほどに、いい眺めだった。
「こんないいところがあったなんて……ありがとう、教えてくれて」
リルがお礼を言うと、エリウスは照れながら、
「い、いえ。リル様。わたくしは貴女におすすめの場所に勝手に連れて行っただけで、お礼を言われるようなことはしてませんわ」
と、顔を少し朱に染めながら言う。
「そろそろお昼だし、戻ろっか」そう言って、リヤカーのある方へ戻る。
「……あれ?」
リヤカーを置いた場所に戻ると、そこにリアカーはなく、リヤカーの上で寝ていた青龍の姿もなかった。代わりに、近くの木に付着した血と、一枚の紙が落ちていた。
『青龍は頂いた。返して欲しくば、城塞都市まで来い』
エリウスはその紙を握りしめると、先ほど見えた要塞の方に向かって、迷わず崖を飛び降りた。




