百一幕:紅蓮教徒(下)
中に通され、床に座り込む。
「それでだけど……なんでうちに入ろうと決意したの?」
嬉しいような、期待しているような。そんな目線をこちらに向けてくる。なんか切り出し辛いな……でもまあ、言い出さなくちゃ何も始まらない。
「俺は、教徒になりにきたんじゃない」
「っ⁉じゃあ……敵⁉」
とっさに後ろに下がり、身構えられる。
「ちょ、ちょっと待て。教徒じゃないから敵なんていくらなんでも短絡的過ぎるだろ。これは質問なんだが……龍以外の生き物として生きていた、なんて記憶や経験はないか?なんつーか、前世の記憶みたいな感じの」
聞いた瞬間、明らかにリルの顔色が変わった。やっぱり経験があるのだろう。
「最近、夢を見るんだ。私が人間になってて、銀色の龍と遊んでて……そう、君みたいな感じの……ううっ」
いきなり頭を抱える。記憶が戻りつつある証拠だろうか。この調子なら記憶が戻るかもしれない。
続きの言葉を放とうと口を開いた瞬間、
「お前、暗黒教徒だな!やつらは不可思議な術を使うと聞く。何でお前らは次々に私を狙うんだ⁉紅蓮教が何かしたか!それとも、私か⁉私に用があるのなら皆に迷惑かけないうちに私だけ連れてけよ!」
またよくわからん単語が出てきたな……この世界は宗教で対立してんのか?それに、暗黒教徒の術は多分能力のことだろう。元が人間だった彼らにとって能力なぞ無縁の存在だ。不可思議なものだと思っても仕方ないだろう。でも能力を知らないということはこちら側にはなす術がないはずだ。それなのになぜ対立を続けていられるんだ?
……今どうこう考えても第三者の俺が一人で解ける問題じゃあない。今わかるのはリルの昔の記憶はなけれどリルの人格が残っていること。これだけで充分だ。それなら、やるべきことはひとつだろ。
俺は龍から人間の姿に戻ると、諦めたのか大人しくなったリルの元に歩み寄って頭を撫でる。
「あいにくここにも摩訶不思議な力を持つ男がいるんだが……どうだ、俺のことを紅蓮教の教徒にしちゃくれねーか?これは、お前らを守るための力で、絶対に対立することのない力だ。信じてもらえるかはわかんないけど、これが俺にできるたった一つの行為、そしてそれが俺にできる唯一の行為だ」




