九十一幕:心錘解放
「別に私だって不死じゃないですよ。それこそ復活できないレベルで粉々にされたら復活もくそもないですからね。その状況に持っていけないのはあなた方の力不足では?」
こいつ……黙って聞いてりゃ偉そうにベラベラと……‼
一発殴りに行こうとする俺を、神王が手で制止する。
「もう少し、わしに任せてくれんか」
小さな声でそう呟くと、再びアルスに向きなおる。
「確かに。主の言う通りわしは非力だ。全能と言われこそすれど、万物を守ることなんてできやしない。全能だからこそ、きちんと断捨離をしなくてはならない。二つを天秤にかけ、どちらが重要か、どちらの方が有益なのか。だが、慎重に考え、導き出した答えが正解だとは限らない。わしにだって間違えることはあるからな。それでも、これだけは間違いなく断言できる。貴様が玉座に座ったところで民はついてこない、孤独な王ほど悲しいものはないぞ」
これは、本当にアルスに宛てたものだろうか。まるでさっきまでの俺の心を見透かしたかのような。何かこう、心の中に温かいものが広がって、心を締め付けていた鎖が消えていく。そんな気分だった。
俺が全てを背負おうなんて、傲慢だったんだ。神王でも背負いきれないものをたかが平凡な人間一人が持ちきれるわけがないのに。それでもリル達を殺されたことは許せないし、自分の非力さを呪いたいくらいに悔しい。でも、過ぎたことはもう戻らない。だからこの経験を糧に強くならなくちゃいけない。二度と同じ過ちを犯さないために……
「---い。おーい、龍也さん?聞いてますか?」
「あ?なんだよ」
「聞いてなかったんですか?私の元につけば、またリル達に会うことができますよ」




