八十四幕:先制攻撃
「アルス‼」
神王の間に着くなりドアを吹き飛ばさんとする勢いで開けると、中にいるだろう龍に向かって叫ぶ。
中も予想通り悲惨な状態だった。装飾は傷付き壊れ、壁のところどころに穴が開いて外が見えている。
そして当然のように玉座にアルスが座り、神王は玉座のそばで満身創痍の状態で倒れていた。
「いらっしゃい、龍也君。そして……ヤリューさん」
直後、反射的に体が動いていた。次の瞬間にはアルスに斬りかかっていた。
アルスは回避することもなく、されるがままに左翼がボトリと血を滴らせながら床に落ちた。
「あった直後にいきなり斬りかかってくるのはどうかと思いますが」
そんな戯言をこぼしながら自身を火で包み込む。
声を聞いた瞬間に自制心やら全てが吹き飛んでしまった。冷静さを保っておかないと。すぐに足元をすくわれちまうからな。
「アルス……なぜ皆を殺した?なんで俺だけ生かしている?」
この時点で確信が持てていた。神様やリルたちをいともたやすく殺せてるのに、俺だけはまだ生きている。神様だって殺せるんだ、その気になれば俺を殺すことなんて赤子の手をひねるより簡単だろう。なのにそうしない理由……この能力か、または龍神に対する因縁か何かがあるのだろうか。
自問したところで答えが得られることはない。火の中に見える影に向かって斬りこむ。だが、周りの火が剣にまとわりついて腕に向かって足を伸ばす。それを見て慌てて剣を消すと、うしろに下がる。
「質問したくせに答える前に攻撃してくるなんて野暮ではないですかね」
そう言いながら火の外に出てくる。その姿は斬られた跡がわからないほどに綺麗に復活していた。
「あなたたちを生かしているのは能力が貴重だというのもありますが、私個人的な問題で生かしてるんですよ。あとひとつ勘違いを正させてもらうと、他の方々はただいたずらに殺したわけじゃないですよ。ちゃんと意味があって殺したんです。ヒトガミは少々予想外でしたが……心配しなくても彼らの死は有意義なものですよ」




