九幕:奇想天外
今回はリル視点です。
ピィが動かなくなり、青龍が水圧砲を今まさに撃たんと口を広げている。
そんな姿を見て、私の体は自然と動き出していた。
「ピ、ピィ‼」
ピィを守ろうと、ピィの元へと飛び出す。だが、青龍が水圧砲を撃つ準備を完了させたのだろう、口を大きく開け、口の中から水の玉が覗いている。
間に合わない。初めて、私の元に現れた龍が。今まさにやられそうになっている。
龍使いは普通、森で卵を拾って、その卵から孵化した龍を使役する。だが、私がとった卵は、全てが中でもう死んでいたり、龍以外の卵だったりで、龍に関しての運がないのかな、って何度も思い、落ち込んでいた。そんな時に私の前に現れた今まさに孵化しようとしている卵から生まれたのが、ピィだった。
私にとって、ピィは救世主なのだ。そんな救世主を、私の身勝手で闘わせ、その闘いで命が尽きようとしている。
私、マスター失格だな。これなら決闘の申し込みを受けないで、龍使いをやめてピィを自由にさせた方が良かったな。本気でそう思えた。
いや、でも駄目だ。私の身勝手でピィを命の危険に晒したんだ。龍使いをやめるとかは、ピィを守ってからでも遅くない。もう間に合わないのはわかりきっている。でも、ピィの元へ飛び込まずにはいられなかった。
青龍の口から水の玉が出る瞬間。大地が揺れた。水の玉はあらぬ方向へと飛んでいき、一本の木へと着弾する。
森へと攻撃を繰り返す者よ。貴様ら、ただでは済まさんぞ。
直後、頭の中に声が直接響いてきた。
……む?そこで倒れているのは、マルクスの子ではないか?
マルクス?何か聞いたことがあるような。そんなことを考えていると、突然ピィが宙へと浮かんだ。
「ちょ、ピィ⁉」
こやつ、確かにマルクスと同じ気配がするな……そこの娘、貴様がマルクスの子のマスターか?
「マルクスの子……はわからないけど、その銀龍は私の龍だよ」
そう答えると、しばらく無言が続く。そして、一瞬だが、確かにピィの体がまばゆく輝いた。
マルクスの子は疲労と怪我で意識を失っていた。故に回復施しておいた。じきに目が覚めるだろう。
「あ、ありがとう、ございます……」
この声の正体って実は優しいのだろうか。マルクスの子ってのもよぅわからないし。わからないことだらけだ。ピィが目覚めたら聞いてみよう。勿論、返事ができるとは思ってないが。
マスターよ。その子は我ら龍族にとって、とても貴重な存在となる。決してぞんざいに扱ったりせず、育ててやれ。マルクスは、仲間思いで、勇敢だったが、人間とは相容れない存在だった。その子には、そのような感情を持たせないよう、頑張ってほしい。
そして、青龍。貴様は別だ。お前には龍の誇りを持つまで、水圧砲を撃てなくする。せいぜい早く誇りを持てるよう、努力することだ。
そう言い終えると、頭の中に響く声は消えた。




