序幕:人生終幕
人間、という種は嘘を吐き、その嘘を嘘で塗り固める。それを繰り返し行って、生きている。人間誰しも保身のために嘘を吐くくせに、他人には本心を求める。実に独善的な生き物である。
なぜ、こんな悲観的な意見を述べているのかというと、たった今、ずっと親友だと思っていた相手に裏切られたから、である。
時は十分ほど前にさかのぼる。放課後、忘れ物に気付いて教室に戻り、ドアに手をかける。すると、中から声が聞こえてきた。普段は誰がしゃべっていようと問答無用で入っていくのだが、自分の名前が聞こえてきたことで、入るのをためらってしまった。
何の話かな、そう思ってドアの前で聞き耳を立てる。どうやら声の主はクラスのメインのグループに属するやつらのようだった。
「蒲生ってあいつだろ?あのクラスでいっつも本読んでるやつ」
「そうそう。あいつまじでなんなの?体育も出来ねーし勉強もできないとか。生きてる意味あんのかな?」
畜生、言いたい放題言いやがって……お前らみたいなやつと関わりたくないだけだ。そう怒りに震えていると、耳を疑う名前が聞こえてきた。
「西山、そういえばお前あいつと仲よかったよな?」
西山だって⁉この学年に西山は一人しかいないはずだ。そして、僕の唯一無二の親友も西山……どういうことだ?
「おいおいやめてくれよ。幼稚園の頃から同じってだけで、あいつが構ってくるから致し方なしに付き合ってるだけだよ。仲良いなんてこれっぽっちも思ってねーから」
嘘、だろ?幼稚園の頃からずっと一緒に遊んできて、困ったら相談乗ってもらって、親友だと思ってたのに。西山は、あいつは、裏切ったっていうのか⁉
いや、違う。悪いのは自分だ。他人に依存し、すがる。勝手に信じ込んで、期待する。どれも、自分が勝手に思い込んだ末路だ。 だからあいつは悪くない。
悪いのは勝手に親友、と決めつけて信じ込んだ自分に責がある。そう、わかっているのに。涙が止まらない。これは自分の失態なんだ。嘘を見抜くことができなかった、自分が悪いんだ。だからあいつを責めることはしない。それでもやっぱり信じたくはなかった。
もう、その場に居たくなくて、その場から逃げ出した。靴も履かず、ただひたすらに走り続けた。ただ、ただ、行き場のない思いに苦悩し、涙を流しながら。
「畜生、畜生、畜生‼」
自分に言い聞かせるように、何度も、何度も。叫び続けた。苦しい、辛い。こんな思いをするくらいなら、人なんて信じない。いや、関わらない方がマシだ。もし、生まれ変われるんだとしたら、もう人間にはなりたくない。
少し落ち着いて、立ち止まる。気付くと、太陽は傾き、家からもかなり遠いところまで来てしまっていた。
遅くなると親が心配するだろう。そろそろ帰らないと。そう思い、帰路につく。
明日からあいつにどう接すればいいんだろう。そんなことを考えながら歩いていると、突然すぐそばでクラクションが鳴り響いた。悲鳴も聞こえてきた。危ない、という声も。
驚いて、音のする方を向く。すると、そこには事故のあとはなかった。その代わり---
僕の眼前には、トラックが迫ってきていた。