7、天才の弟子
ミラ視点に戻ります。
ふと目がさめると、ツキンと頭が痛みます。
これはまだ起き上がらないほうが良いかもしれません。
目だけで周りを見ると、自分の胸元に白いフワモコ毛玉を見つけました。
「シロさん…」
私の声にシロさんの耳がピクリと動きます。
そしてむくりと起き上がると、私の頬をペロッと舐めました。
「ここは家…じゃないですよね。床が石?洞窟?それにしては明るい…」
深呼吸していると、頭痛が落ち着いてきました。
ゆっくりと起き上がって周りをキョロキョロ見てみると、どうやら私は洞窟の最奥にいるみたいです。
よく見ると洞窟自体が光っているような…苔でしょうか。
「起きたようね。平民の娘」
「ひゃっ、だ、誰ですか?」
突然の呼びかけに動揺する私。
目の前に現れたのは、目も覚めるような美女さんです。
ゆるくウェーブのかかったオレンジの髪に、深い緑の瞳。
体のラインを強調させる赤いドレスは、彼女にとてもよく似合っています。
「なによ。つまらない茶色の髪じゃない。目はまぁ…あの緑だけど、わたくしの方が美しいに決まっているわ!」
突然の美女さんからの言葉に、私の思考はストップ状態です。
確かに私の髪はありふれた茶色だし、まっすぐな髪も普通ですが、そんな風に言わなくても…
「…て、そうではなく、ここはどこですか?私はミラです。あなたは誰ですか?」
「うるさいわね平民の娘如きが。わたくしはあの御方をお救いするために来ましたの」
「へ?御方?」
「マール様ですわ!稀代の天才と言われ、王国でも一位と呼ばれる薬師である、美しいあの御方ですわ!」
「稀代の…天才…」
やはりそうだったのですね。薬師様はすごい方なのですね。
それなのに、こんな辺境の村に来るなんて…謎です。
「そんな御方が辺境の村に住み、あまつさえ平民の娘を弟子にしたというではありませんか!」
「弟子?」
弟子?
薬師様に弟子なんていらっしゃったのでしょうか。
「とぼけてらっしゃるわね!お前でしょ平民の娘!」
え?
「ええええ!?違いますよ!!私はただのお世話係ですよ!!」
「それが弟子じゃないの!お前は馬鹿なの?」
知りませんでした。薬師様のお世話係って弟子ということになるのですね。
でもオルさんも薬師様も、そんなこと言ってませんでしたし…
「マール様には王都に戻ってもらいますの。お前は邪魔ですわ」
赤いドレス美女さんは艶然と微笑み、手に持っている銀色の箱を地面に置きました。
何か嫌な予感がします。
「この結界は、発動すると二度と外に出られない空間を作り出しますの。
お前はここでずっと結界の中…まぁ、死んで魂になれば出られるかもしれないですわね」
「や、やめてください!」
銀色の箱から光が漏れ出し、結界らしきものが発動してしまいました。
死ぬまで出られない…
そんなの嫌です…私はもっとやりたいことがあります…
銀色の光はますます強くなり、薄い膜のようなものが広がってきます。
「助けて…助けて薬師様…」
助けなんてくるわけがないのです。
私はシロさんを胸に抱いて、絶望に囚われようとした時…
ーーーパリィィィンーーー
薄いガラスが割れたような音が響き渡りました。
「な、なぜ!?なにが起こったの!?」
呆然としていると、後ろから温かい腕でギュッと抱きしめられます。
お日様の匂いと、スッとした薬草の良い香り…耳元に熱い吐息が感じられ、思わず息を止めてしまいます。
「ミラさん…すみません、遅くなりました」
「く、薬師様!そ、そんな、あの、えと…」
「大丈夫ですか?痛いところはありませんか?」
「いや、だからその…」
「結界は僕が壊しましたよ。もう大丈夫です」
「だから…だから…」
「ん?」
「耳元で…耳元で話さないでくださいーーー!!」
きっと私の顔は真っ赤になっているはずです!
薬師様のいい匂いが!熱い吐息が!心地よい声が!
心臓がもう!もう!無理ですーーー!!
「ふふ、ミラさんいい匂いがしますね」
きゃーーー!!
匂いかぐとかだめですーーー!!
し、心臓がぁーーー!!
初めて評価をいただきました!
ふ、ふるえが…嬉しくてふるえが…
ありがとうございます!頑張ります!。・゜・(ノД`)・゜・。