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6、「城」からの手紙

途中から視点が変わります。


私が本を開いたのは、薬師様が出かけて二時間ほど経った頃でした。

掃除や夕飯の仕込みなど、細々した家事を片付けていたからです。


「ええと、心臓を強くする…滋養強壮とかですかね…」


「キュン?キュンキュン?」


「薬師様の笑顔とか、視線とか、なんだか色々と心臓に悪すぎます!」


「キューン?」


私の膝に乗るシロさんは「どういうこと?」と問いかけるように首を傾げます。

文句無しの可愛さです


「そもそも薬師様っていえば年配の方が多いじゃないですか!あんなに若くて綺麗な男性だなんて…それに、あんなに優しくて、笑顔も素敵で、今日の寝癖も可愛かったり…反則!反則なのですよ!」


シロさんに話しかけながら、右手で本のページをめくりつつ、左手でシロさんをなでなでします。

私って案外器用です。びっくりです。


「心臓に効く…『ウツガネ』は血流を良く健康に良い…これでしょうか。ねぇシロさん」


「キュン!」


「どこで採れるのでしょうか…薬師様が帰ってきたら聞いてみて…って!シロさん!大変です!」


私は今更ながら、大変な事に気が付きました。

いつもシロさんが私の側にいてくれるので、すっかり忘れていました。


「薬師様は一人ですよ!一人で村に行きましたよ!」


「キュン?」


「シロさんは薬師様の眷属です!薬師様に何かあったら…!!」


「キュン!キュキュキュン!」


シロさんがパニックになる私に向かって、何かを訴えるかのように鳴き声をあげた瞬間




ーーーキィィィィィィイイイイィィィィィィィンンンンーーー




頭に響く金属音と、ものすごい頭痛が私を襲い、そのまま目の前が真っ暗になり…




=================================




「どうしたマール?」


「…いや、何でもない」


「ったく、相変わらずお前は無愛想だよな。ミラの前では気持ち悪ぃくらいニヤニヤしてるのに」


「うるさいな」


オルの顔だって、ミラの話をしている時はニヤニヤしている。

言い返したいが、自分のにやけ面は自覚しているので、あまり強く出られない。

今だって家でミラが待っていると思うだけで、ニヤニヤが止まらなくなりそうなのだ。

『薬師様』としての顔を作るのが最近辛くなってきた。これではいけないと思うのだが、緩んだ顔はなかなか戻らない。

口調だって丁寧にしている。とにかく優しく接するように心がけている。

まぁ、そんなことをしなくてもミラには自然と優しく接してしまうのだが。

彼女には周りをあたたかい空間にする、才能みたいなものがあると思う。


「ミラを泣かすなよ。大事な俺の娘みたいなもんなんだからな」


「わかっている」


オルの家には、所々にミラの存在感じる。

女の子が好きそうな小物に、飾ってあるポプリやドライフラワー。

オルがミラを大事に育ててきた事は、部屋を見ればよく分かる。


「まぁ、学ぶことはミラの夢のひとつだからな。できれば王都の学校に入れてやりたいんだが…」


「それはいずれ考えるとして、呼び出した理由はなんだ?」


「ああ、『城』から手紙がきた。お前宛だ」


「何故だ?僕はもう『城』とは無関係だ」


「それでも奴らは…というか、お姫さんあたりが関係を続けたがっているんだろう

モテる男は大変だなぁ」


悪い顔で笑いながら、手紙を渡してくるオル。

こいつのこういう所は昔から変わらない。すぐ人をからかって面白がる。


「ああ、やはり二番目の姫からだ。視察という名目で、この村に来るそうだ」


「はぁ?よく王が許したな」


「僕がいるからね」


「稀代の天才であるという最年少の薬師様マール?」


「そういうこと。そんな僕はハルノ村にあるという、希少な薬草で研究をしている…ということになっているからね」


「ミラには会わせるなよ。絶対面倒なことになる」


「彼女には今日のように森で待っててもらうさ。さすがに王族を森に連れて行くわけにもいかない」


「ま、そうだけどよ」


(…あ………ある………あるじ!主!聞こえる!?)


「シロ?どうした?」


「なんだ?」


「シロから思念が入った」


眷属のシロとは、遠く離れていても思念でやり取りができる。

いつもはもっとハッキリ聞こえるのに、何故か雑音が混じってうまく聞き取れない。


(主………ミラ………さらわれ………結界………)


「ミラさんが!?」


「おい!ミラがどうした!」


ミラの名前を出したことで騒ぐオルを押さえつけ、周りの精霊力を高めて思念集中させる。

雑音が消えて思念が強く繋がる。


(シロ、お前はミラさんと一緒にいますか?)


(いるよ。何か結界みたいな中に入れられている。ボクの力を解放してくれたら出られるよ)


(ミラさんは無事ですか?)


(当たり前だよボクがいるんだから。ミラは今寝てるよ)


(分かりました。もう少し今のままでいてください)


(わかったー)


「おい、どうなってるんだ!」


「ミラさんがさらわれた」


「何ぃぃっ!?」


怒りのあまり顔を赤黒く染めたオルは、その勢いのまま胸ぐらを掴んでくる。


「落ち着けオル。僕を誰だと思っている?」


そう。


僕を見くびってくれては困る。

自然と浮かぶ笑み。

僕を見たオルの顔から血の気がひいた。




「さぁオル。ミラさんを迎えに行こうか」





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