35、呪いを解く方法
《我が言うのもどうかと思うが、マルスの事を想い、行動に出た女性は他にも居るのかい?》
「お久しぶりです精霊王、オルフェウス・ガードナーと申します。これは姪のミラです。十年前に貴方様の助力で、ミラの心は保たれました。彼女こそ精霊の愛し子であり、マルスに聖剣を与えた者です」
《うむ。我もそう思った。だが彼女はマルスの聖女ではないと言う》
精霊王様は困った顔を私に向けました。
「あ、あのすみません!記憶が最近戻ったのもあって、精霊や聖獣と話せるようになったのも驚いているくらいなのです。聖女と言われても、私にその資格があるかどうか……」
私は慌てて精霊王様に訴えます。
がっくりと膝をついていたマール様は、私の手にそっと触れます。
「すみません、混乱させてしまいましたね。では改めてお願いします」
マール様は立ち上がり、私の前で跪きます。
そっと私の手を取ると、自分の額に押し当てて頭を垂れました。
「精霊王の加護の元、我に聖剣を与えし聖女ミラ、我と共に在らんことを願う」
私の手をマール様の銀髪がくすぐります。握られた手から伝わる震えに、マール様の想いを感じ、マール様への愛おしさに心が震えて涙が溢れます。
ああ、この人が好きだ。
私の初恋の人。
記憶がなくても、髪色を変えてても、どうしようもなく惹かれた。
この人の言葉、触れる手に、私の心臓は壊れそうなくらい高鳴った。
「許すと……許すと言って、ミラ」
名を呼ばれて、触れている手が甘く痺れる感覚に私は戸惑います。
「ミラ……お願いだ、ミラ」
マール様は顔を上げ、その宝石のような紫の瞳で、私を甘く見つめて微笑みました。
「ゆ、許します……」
つっかえながらも何とか応えると、満面の笑みで「ありがとう!」と言って私に抱きつき、オルさんに怒られるマール様は、いつも通り温かくて薬草の匂いがします。私はなんだかとても心が安らいで、マール様にの胸にそっと顔を寄せるのでした。
《さて、マルスは落ち着いたかな?》
「すみません、ケヴィ」
《ふふふ、我もマルスの初恋が実って嬉しい限りだよ》
え?マール様の初恋?
マール様を見ると、顔を真っ赤にして俯いています。
「まさかマールがロリ…「黙りなさいオル」…へいへい」
オルさんが何か言ってましたが、マール様が速攻冷気を放って黙らせてます。
《さて、マルスの呪いを見せてごらん》
精霊王様の言葉に頷くと、マール様は袖を肩まで捲り上げます。赤い蛇のような模様が肩に届くくらいになってしまってます。
《ふむ、だいぶ進んでしまったね。魔法使いの時を遅らせる魔法を解いてしまったせいだね。破邪の守りを持っていて良かった。これが無ければ危なかった》
「マール様!やっぱり無茶したんですね!?」
「エンリに感謝だな…」
「すみません…ミラが泣いていると聞いていても立ってもいられず…」
マール様は憂い顔で私を見てきます。負けません。そんな潤んだ瞳で見てもダメです。ドキドキするけど我慢なのです。
《我の欠片を渡そう。ミラ、手を出して》
私が手を差し出すと、精霊王様はシャリンと嘴から、ガラスの破片のような透明なものを出してくれました。これが欠片?
《魔法使いは素材の事しか言ってないようだけど、この解除薬は聖女が必要不可欠なんだ。これを煎じて月夜の雫を混ぜ、聖女が対象者に口移しをしなきゃなんだけど》
「ふぇ!?」
「何!?」
「……」
驚く私の隣で「オルはさっきキスまでは許すと言いました…」などと言ってるマール様が居ますが、今はそれどころではありません!
キ、キ、キ、キスデスカ!!
人助け人助け……マ、マール様の唇に…私のく、くち、くちびるを…
……
「おい、ミラ大丈夫か!?」
「ふにゃぁああぁああ……」
ダメです、顔が熱くて熱くて…ずるいです…ぷしゅー…
「ミラはキスでこんなに…なんて愛らしい…」
「ごるぁ、このむっつりが!!ミラはやらねぇぞ!!俺が代わりにやったる!!」
ギャンギャン騒ぐ二人をよそに、私はひたすらマール様とのキスを想像して、顔を真っ赤にして身をよじるのでした…
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