34、精霊王の欠片
「キュン!キュン!」
「シロさん!」
白いフワモコな毛玉が駆け寄ってきて、私に飛びついてきました。
回復しているようですが、シロさんの言葉が聞こえません。でも子犬サイズで甘えてくるシロさんにホッとしました。
抱っこして撫でていると、なぜかマール様がじっとりとした目で見ています。そのままシロさんの首ねっこをつかんで私から取り上げてしまいました。ああ…フワモコ…。
「ククッ、犬っころに嫉妬とか」
「うるさいですよ。オルだって恋人の胸元でシロが甘えていたら…」
「斬る」
「キュワン!?」
「ええ!?」
何だか不穏な会話にびっくりです。シロさんがマール様にしがみついて震えています。
シロさんにマール様が嫉妬って……マール様が私を……あうぅ……
私が顔を赤くしてモジモジしている間に、オルさんはテントを張って野営の準備を始めました。慌てて私もフリューリンクとヴァイスと一緒に周囲の警戒です。
マール様は持ってきた毛布を敷いて休んでもらっています。先程まで手伝うって言って聞かないので、オルさんが「大人しくしてたらキスまでは許す」って言ったらあっという間に大人しくなってたんですけど、それって……いや、今は深く考えないようにしましょう。
「月夜の雫は四日後ですよね、精霊王の欠片ってどうすれば手に入れられるのでしょう」
「キュン!」
「シロが案内します。そのために来たのですから」
「ダメです!場所を教えてもらったら私達だけで行きますから!」
「ミラさん、精霊王の場所に行くには僕とシロが行かないとダメなんです。クラウスが知って指示したのかは分かりませんが、僕を森の家まで連れてきたのは正解でしたね」
(精霊王様は日が出てないと会えないから、朝になってから行くと良いよ。見張りは任せてゆっくり休んで)
「僕はユニコーンの群れに戻るよ。何かあったら呼んでね!」
フリューリンクは風に戻り、ヴァイスは森の奥に消えました。
そして私達三人とシロさんは、精霊の森で夜を過ごすのでした。
朝日にきらめく森の緑は、夜と真逆に明るい気持ちになります。
シロさんが前を歩いて、マール様、私、オルさんの順に歩いていきます。
「不思議ですね、道がないのに道があるみたいな…」
「シロはこの『森』の精霊ですからね、森が彼なんですよ。昨日ミラさんが泣いていたのが分かったのも、森の情報をシロが知って、僕に教えてくれたんです」
「そ、そうでしたか…」
マール様を想って泣いているのを見られたって、何だかすごく恥ずかしいです。甘く微笑んで私を見るマール様が素敵すぎて顔を上げられず、私はひたすら足元を見て進みます。顔が熱いです。
「いちゃついてるとこ悪いが、着いたみてぇだぞ」
「いちゃ……オ、オルさん!!」
ヴァイスと会った場所から少し歩いたところに、それはありました。
大きな白い岩のようなもの。でも磨いた大理石のように表面は滑らかです。巨大な卵のように見えます。
「キュゥン…」
シロさんが岩の側まで行って、悲しそうに鳴きます。
マール様はそっと岩を撫でると右手を上げて言いました。
【顕現せよ、聖剣デュランダル】
緑の光が集まって、気づくとマール様は一振りの剣を掲げていました。
そしてそのまま剣を岩に突き立てます。
一瞬身構えましたが、音もなく剣は岩に飲み込まれるように消えてしまい…私は慌てて近づこうとすると、後ろからオルさんに肩を掴まれ止められました。
「そろそろ起きてください。精霊王ケヴェクスヴォール」
マール様の声に反応するように剣が入ったところから岩にヒビが入って、そこから光が漏れ出でてます。やはり卵だったのでしょうか?
ーーーーシャリンーーーー
まるで鈴のなるような音がしたかと思うと、岩は強い光を放って消え、代わりに大きな鳥が鎮座していました。
「おお、十年ぶりに見たな精霊王」
「え!?ええええ!?」
のんきに呟くオルさんに、私は驚くことしかできません。
黄色から緑、青になるグラデーションの配色の羽をゆったり羽ばたかせ、長い首をマール様の所まで下ろしました。
「キュンキュゥゥン!」
《久しぶりだね、マルス。シィスロートも元気そうだ。分かっているよ、呪いをかけられたね》
「……解くためにケヴィの欠片が必要で……すみません」
《ははは、良いよ。我の欠片など些細なこと。それよりも呪いだが……もしや素材を集めるよう言ったのは魔法使いの彼かい?》
「はい。これでは解けないのですか?」
《いや、解けるが……これには聖女が必要だよ。彼女が君の聖女ということで良いのかい?》
「はい!」
「え?」
突然のことに頭がついていきません。
横でガックリとマール様がしゃがんでいます。
オルさんが爆笑しています。
あれ?
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