33、想いは募る
オルさんが盛大に驚いています。
手をワナワナさせて、口をパクパクさせています。そんなの驚くことなのでしょうか?
「驚くだろう!ドラゴンとか、フェニックスとか、個体からの加護を得る話は聞いた事がある、けど『聖獣』って事は、それ引っくるめて全部って事だからな!?」
「ああ、もしかして小さい頃に動物に囲まれていたのも…」
(もちろん、聖獣の子供も混ざっていたわよ!精霊が動物の姿をしてた私もいたけどね!)
「信じられん……」
「とりあえず、ユニコーンの鬣は貰いましたから、月夜の雫を……」
(月夜の雫は、四日後の満月に採れるの。しかも朝になると普通の水になっちゃうの)
「四日後…」
「それまでマールが保つかってところだな」
考えないようにしていた事。
マール様の青白く綺麗な寝顔に死を感じたことを。
甘く優しい笑顔を二度と見れなくなる、そんな可能性。
頑張れば大丈夫だって。
そう思ってたけれど、そうじゃない。
クラウス様の力、オルさんとエンリさんの力、聖霊様や聖獣達、たくさんの力を私はもらっている。
私には……何が返せる?どうやって購える?
私が渡せる物は、何もない。何もないのに……。
「ミラ?どうした?」
(ミラ!大丈夫!?)
「ミラー!どうしたのー?」
顔が濡れています。泣いてるの?私が?
オルさんが物凄く慌てて、困った顔で見ているのがおかしくて、つい笑ってしまいます。
それでも、涙が止まらないです。
「ミラ、大丈夫だ。マールは呪いに負けねぇよ」
オルさんが頭を撫でてくれます。小さい頃みたいです。
涙は止まりません。
だって、だって……
マール様が居なくなっちゃうんですよ!
少し触れられるだけでもドキドキして…初恋の人だと思い出して…やっと気付いたのに!
薬師様として紹介された時から、私は……私は……!!
「ミラさん」
…………え?
風にのって香る、薬草の香り。
心地よいテノールに、振り向くのが怖い。
「ミラさん?顔を見せてくれないのですか?」
後ろから抱きしめられて、驚いた私は泣くのを忘れてしまいます。
「……マール様?」
「はい」
「マール様?」
「はい、何ですか?」
抱きしめる腕をそっと解いて振り向くと、月明かりに照らされて輝く銀髪と、宝石のように輝く瞳に私を映した人……私が恋してる人がいます。
「夢ですか?」
「違いますよ。精霊の森に来たおかげで、だいぶ力が戻ってきました。呪いは消えませんが、なんとか抑えることが出来そうです」
「さすがマール。しぶといな」
「オルに言われたくはありませんよ。それより何ですか。僕が寝てる間にクラウスはともかく、このアイテム…」
マール様はエンリさんが作った「フダ」を取り出します。
「げっ……」
「これ、すごいですよ。『魔』だけじゃなく『邪』も祓うようになってます。東国にあるという法力とも違いますね?」
オルさんの顔色が悪いです。なぜでしょう。
「マール様、それはエンリさんという方からいただきました。オルさんの恋人なんですよ。すごく可愛い方なんですよ」
私は慌ててマール様に伝えます。オルさんは何故か片手を額に当てて上を見ています。
「オル……あの重要な仕事の最中、何やってたんですか……」
「いや、それは成り行きっつーか……それよりもエンリのおかげで魔王教の残党も減ってきたし、お前も助かったじゃねーか!」
「それは結果論であって……」
言い合う二人をぼんやり見てましたが、ハタと気づきます。
「マール様!いけません!安静にしてないとダメです!」
マール様の体にしがみつくと、切り株がある所に連れて行って座らせます。そのまま動かないように、ぎゅっとしがみついておきます。
「シロさんも少し回復したからって、ここまで来るなんて無理をして!」
「す、すみません、でもミラさんが泣いてるって、いてもたってもいられず……」
「それでもです!!」
「す、すみません……」
マール様が動かないようにしがみつきながらプリプリ怒っていると、オルさんは笑いながらマール様をからかいます。
「お前、早速尻に敷かれてるなぁ。ミラは怖いぞー」
「もう!オルさん!」
まったくオルさんは、こんな時なのに何を言ってるのですか!
「あの、ミラさん」
「はい、何ですか?」
マール様は銀髪をさらりと揺らすと、少し目尻を赤くして困った顔をしています。
「もう、動かないので、そろそろ離れていただけると……えっと、僕も男なんで……」
よく見ると私、思いっきりしがみついて、思いっきり胸、胸を……
「ひゃあ!?す、すみません!ちっちゃくてすみません!」
「い、いや僕は!小さい方が好きで!」
「……お前ら何言ってんだよ」
慌てて訳の分からないことを言い合う私達を、オルさんは呆れて、フリューリンクとヴァイスはキョトンと見ているのでした。
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