32、ユニコーンのヴァイス
「人が?人が魔王を復活させようとしているのですか?」
マール様が、オルさんが、たくさんの人が守ろうとした愛するものを、壊そうとするのは人?
何故?どうして?
とても悲しい気持ちになる私に、オルさんが優しく答えてくれます。
「ミラ、お前は両親の事で、悲しくて壊れてしまいそうになった時、マールに助けられただろう?」
「はい」
「お前にはマールも、俺もいた。でもな、誰しもがそうじゃない。誰かに守ってもらえない人もいる。誰かを守れなかった人もいる。その時に立ち直れる人もいるが、立ち直れない人もいる」
それは分かります。経験したからこそ、私はとても恵まれていると実感する日々なのです。
「立ち直れない人の中には、悲しみや憎しみで自分が壊れてしまって、そこで魔王という存在を思い出す。自分の黒い感情を肩代わりしてくれて、壊れてしまう自分はどうでも良いと、周りの人が、国が、世界が壊れてしまえばいいと。そう思ってしまう人がいる」
オルさんもそう思った事があるのでしょうか。
眉間にしわを寄せ語るオルさんは、心配そうに見ている私に気づくと優しく微笑んでくれました。
「そうは言っても、そう強く思うようになったのは最近でよ、あいつと旅してる時に、一時居なくなった事があって…その時だな。ミラを心配する時もあるけど、なんだかんだお前は聖霊に守られてるからな、男関係以外は心配してねぇ」
「男……もう!オルさんったら!私にそんな人は」
「マールがいるだろう。ククッ、あいつ十年待って実らなかったら…俺は同情するぞ」
顔を真っ赤にする私を面白そうに見ていたオルさんでしたが、不意に顔が変わります。
周りの空気が変わって、私の周りに気持ちに良い春風のような風が吹きました。
「フリューリンク?」
(ええ、そうよ。ユニコーンの場所を見つけたわ。すぐに行ける?)
「ええ。すぐ行くわ」
オルさんはすでに火の始末をしていて、テントを手早く畳んでいました。さすがです。
フリューリンクは私の周りを飛び回り、嬉しそうに髪や服を揺らしています。準備が終わったオルさんが片手を上げました。準備が出来たみたいです。
「行きましょう」
夜の森は足元も見えず、とにかく危険です。
木の根や地面の凹凸が分からなくて、何度も転びそうになります。
私はフリューリンクの速さについて行けず、夜目の利くオルさんが「背負っていく!」と、問答無用で私を背負って森の中を走ります。
「す、すみませっ、重い、ですよ、ね!」
「懐かしいな!ミラが小っせぇ時は、良くおぶってやったな!」
「いつの、話、ですかぁ!」
走るオルさんに揺らされて、頭がクラクラしてきます。
それにしてもオルさんの体力は底なしですね…四十路とは思えません…
(すぐそこにいるよ!ミラ!)
鬱蒼とした森の中から急に小さな空き地に出ました。そこには月明かりが降り注ぎ、夜露に濡れた草がキラキラしています。
オルさんは足を止めると私を下ろし、木の影に隠れました。
ユニコーンは男性よりも女性を好むそうです。私だけでは不安ですが、マール様の命がかかってますし、なんとか鬣を貰えるよう交渉しないとです。
(ユニコーン!ミラが来たよ!)
フリューリンクがよびかけると、真っ白な体に銀の角を額に持った……小さな男の子が出てきました。
髪も瞳も着ている服も、全身真っ白な子供がいる。
あれ?男の子?
「ミラ!ミラ!久しぶりなのー!」
「しゃ、しゃべっ……え!?えええ!?」
「ヴァイスだよ?覚えてない?」
「えと、どこかで…お会い…しました?」
「ちょっと前も薬草の場所とか教えたよ!」
そういえば、必要な薬草のある所が光ったりして、いつも何でだろうと思ってましたが…
オルさんは危険がないと分かって、こっちに出てきました。
「あの光はヴァイス…あなたのおかげなの?」
「そうだよ。まだ鬣は生えそろってないからこの姿だけど、ミラの欲しい分はあげられるよ!
早く大人になって、ミラを背に乗せたいな!」
「え、ええと、ありがとうヴァイス」
ユニコーンは大人になると馬のようになるんですね。初めて知りました…なんかショックです…。
オルさんは小さなナイフを私に手渡します。ヴァイスが髪の毛をかき上げ背中を向けると、微かに硬い毛が首から背骨に生えてるのが見えました。
「ミラは精霊だけじゃなくて、聖獣の加護もあるんだから、僕たちはいつだって助けるよー」
「え?」
「何だってぇぇぇーーー!?!?」
私より、オルさんがビックリしてますよ?
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