31、風の精霊フリューリンク
遅れてすみません!
「はぁぁ…エンリさんの魔法すごかったです…」
水に流されたと思いましたが、服とか濡れてなかったので幻影のようです。ちらっと見えた異界の神様は、龍のようにも見えました。
「宿に一人で大丈夫でしょうか…エンリさんは…」
「俺が離れたら護衛に二神つけるようにしてるから大丈夫だ。それにアイツはミラよりかなり年上だぞ」
「ええ!?」
オルさんの過保護には驚きませんが、エンリさん年上?……確かに一部大人っぽかったですけど。
「マールの状態も安定してるみたいだ。とりあえず薬師の家に運ぶぞ」
オルさんはマール様を担いで森の家に向かいます。
久しぶりに帰る家は、どこか冷んやりとしています。マール様をベッドに寝かせて、枕元に小さくなってしまったシロさんを寝かせます。そっとタオルをかけて、フワフワな毛並みをそっと撫でました。
「犬っころは力を抑えているな。精霊の森に近いこの場所にいれば、多少は回復するかも知れねぇ」
クラウス様から渡されたメモを見ると、綺麗な文字で素材名が書かれています。
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・ユニコーンの鬣…数本
・月夜の雫…数滴
・精霊王の欠片…小石くらい
呪いの進行を遅らせることは出来たけど、体力的にも五日が限度。
素材を集めたら連絡をしてね。
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「森で揃うものっつーか、これ精霊魔法使えねぇと……」
「シロさんは寝てますし……あ、そうだ!」
私はマール様の部屋に行き、本棚を見ます。やっぱりありました。
「マール様なら、きっと私に本を用意してくださってると思ったのです」
「あのムッツリが……よし、ミラ。今は時間がねぇから風の精霊に頼む方法を探せ」
「はい!」
ムッツリってなんでしょう?
首をかしげつつ、数冊ある『精霊大全』を開くのでした。
森の前で目を瞑り、深く鼻から息を吸って、口から細く長くはきます。
風の精霊さんは、自然に起こる風の中に必ずいます。そこに呼びかけるには自身の精霊力を声に乗せて伝える必要があると、本に書かれていました。
高い音が風の精霊の好む声で、最初は歌のような文言が良いらしいのですが、本当は少なくとも一年訓練をするそうなのですが…
「ミラなら大丈夫だ。小さい頃は何もしなくても精霊と遊んでたんだ」
「はい。や、やってみます!」
震える声を呼吸抑え、ラーラーラーと音を出します。空気がふわりと揺らいだ気がしました。
ー絶え間なく旅する同胞達よ
ー私の声が届いたならば
ー森を、草を、私の髪を揺らして欲しい
私は吹いてきた風に、髪を数本切ってそのまま飛ばします。
すると、飛ばされたはずの髪が、くるくるその場で回って、全てが薄い緑色の少女が現れました。
(久しぶりミラ、ちゃんと呼んでくれたから、動物じゃなく精霊の姿で応えられたわ!)
「風の…精霊さん?」
私が小さい頃に遊んでくれた…緑の鳥の精霊さん?
(あの時、力が弱くて助けられなかったけど、精霊王様の加護の子が頑張ってたわね)
「そ、そうなんです!マール様は今度も私のために…!!」
(分かってるわミラ、風の精霊は全て知ってるのよ。とりあえずユニコーンと月夜の涙を探してくるから少し時間を頂戴。私はフリューリンクよ!)
フリューリンクは強い風を吹かすと、森の方に消えて行きました。
気がつくと暗くなっています。森の前でテントを張って火を起こし、待つことにしました。
「さすがミラだ。上手く出来たな」
誇らしげに言うオルさんに、私は聞きます。
「オルさん、魔王はなぜ呪いの力を残したんですか?」
オルさんは驚いた顔をしました。でも私の知識欲を知るオルさんは「ミラは変わらねぇな」と笑います。
私は不思議なのです。何故それが今なのか。王女様を使ってまで、私を殺して世界を壊して……何のために?
「魔王は何もしてねぇ。魔王の力は俺たちと戦った色々な場所に残っているんだ。それが稀に掘り出されることがある。大体は国が厳重に保管してるんだが…今回のは魔王が力を込めたアイテムが綺麗に残ってたみてぇだな。それを使って聖女を殺せば魔王が復活すると思い込んでる奴らがいる」
「いったい誰が……」
「犯人は城の関係者で、魔王の残党…」
「魔族?魔物?」
「いや、魔王を神として崇め奉り信望する……人間だ」
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