30、オルさんの恋人…嫁?
サラサラの真っ直ぐな黒髪は肩くらいまで伸ばしていて、濃い茶色の瞳は大きく見開き私を見上げています。
何でしょう!この小動物のような可愛さは!
オルさんを見ると、なぜか真っ赤な顔で固まっています。しょうがないので私が話を進めますか…
「あの、初めまして、ミラといいます。お名前は?」
「エンリです。エンリ・モリノ。オルさんは恩人なんです」
エンリさんはニコリと笑いました。可愛いです。
オルさんはハッと気づくと「そうじゃねぇ!」と騒いでます。エンリさんも私も首を傾げました。
「あぁ、だから、エンリは…俺の恋人…嫁…なんだ」
「ええ!?」
「言っちゃうの!?」
なぜかエンリさんも驚いてます。
「なんでお前も驚くんだよ」
「いや、今は緊急事態だし、落ち着いてから言うのかと…」
不貞腐れるオルさんに、エンリさんは慌てて宥めます。
あの一切女っ気の無かったオルさんが、とうとうお嫁さんを……こんな時ですが感慨深いです!
「この人が…この人がマルスさん…『銀髪の勇者』…本物なんだ…」
え?エンリさんはマール様を知ってる?
目をキラキラさせてマール様を見ているエンリさんを、オルさんが苦虫を噛み潰したような顔で見ています。面白いですオルさん。
「クラウス君の結界魔法がかけてあるけど、一応これも持ってて」
エンリさんは何か文字の書いてある紙をマール様服に貼り付けました。悪いものを浄化するフダというものだそうです。
呪いに魔王の力があるということは、神聖魔法が効かないからと言うと、そういう力ではないそうです。
心なしかマール様の顔色が良くなってきたみたいで少しホッとします。
不安そうな顔をした私を抱きしめてくれるエンリさん。優しい温かさと柔らかさに涙が出ます。
……そして自分のを見て少しへこみます。
「とりあえず、精霊の森に急いで行かなきゃだね。
えーと。空間魔法は使えないんだよね。ってことは、召喚で神様にお願いするか…」
「神様ですか?」
「ああ、エンリの召喚魔法は異界の神限定で呼べるんだ。かなりすげぇぞ」
「さすがオルさんの奥様ですね!」
「「なっ!!」」
二人とも顔が真っ赤です。
「と、ともかく、召喚するのに二人の力を借りるよ。時間がないからね。
ミラさん、その精霊の森には水のある場所ってある?」
「オルさん、精霊の森とはハルノ村近くの森でしょうか?」
「ああ、そうだ」
「そうですか…では森を入ってすぐに泉がありますね。綺麗な水が湧いています」
「綺麗な水ならかなり助かる。ミラさんはその泉を思い浮かべて、オルはハルノ村を思い浮かべてくれる?」
「おう」
「分かりました」
エンリさんは私とオルさんの手を自分の肩に乗せるように言うと、 そのまま二回お辞儀して二回手を叩き、もう一回お辞儀をしました。
手を合わせていると、魔法陣が展開されます。召喚魔法は初めて見ますが…
「これはエンリしか使えねぇ。誰にも言わないでくれ」
「分かってます。エンリさんはすごいですね」
それに比べ、私は……自分の力不足を痛感します。
「ミラは十年も力を封じたままだった。これからは精霊魔法を使えるようになる」
「……はい!」
「私は場所を知らないから一緒に行けない。でも三人を必ず送り届けるよ。誰よりも早く!!」
大きな力の流れを感じます。エンリさんが少し汗をかいて叫びます。
【クラミツハ】!!
魔法陣が光り、そこから大量の水に流される感覚があったと思った瞬間……私とオルさんはマール様を抱えたまま座り込んでいました。
気がつくと、そこは精霊の森近くの泉。
私達はハルノ村にいたのです。
お読みいただき、ありがとうございます!
オルさん可愛いです。




