28、三大英雄
私の手を握るマール様の冷たい手には、纏わり付くような赤い蛇の模様が刻み込まれています。
その赤い線は、じわじわと広がっているようです。
これは一体…
「予想通りだな…ミラを狙ってやがった。俺がマールを抱えるから、ミラは犬っころに頼んで認識阻害の魔法を俺たちにかけてもらえ」
オルさんが冷静に指示を出します。
私を狙ってた?
マール様の姿を変えていたのは精霊魔法だったらしく、髪は銀色に戻っています。カーチスさんも元の赤髪です。私は慌ててシロさんにお願いして、周りから見えないようにしてもらいました。
私を襲ってきた女性は、再び倒れています。フードがめくれていて、顔が露わになっていました。
「……っ!?この方は!!」
「この女……またか……」
オルさんが苦々しげに呟きます。私は彼女の元に近づくと、そっと首筋に手を置きました。意識がないだけで、脈は安定しています。
「この方は…シャルロッテ王女様…。カーチスさん、この方も運んでもらって良いですか?」
「はい」
「ちっ……しょうがねぇ。とにかく宿に行って、そこでこれからを話し合おう」
オルさんに担がれたマール様は、真っ白な顔色で呼吸も浅いようです。
知らずに、私の体は震えていました。マール様は私を庇ってこんな事に…マール様…!!
キュン…(大丈夫だよミラ。君が辛そうな顔をしていたら、主が悲しむよ…)
「……はい、シロさん」
そんなシロさんも、私の腕の中でぐったりしています。眷族であるシロさんにもマール様の呪いの影響が出ているようです。
「犬っころも危ねぇな。急ぐぞミラ」
「はい」
宿に着くと、オルさんは大部屋を借りて、マール様とシャルロッテ王女様をベッドに寝かせます。
カーチスさんには怪しい人間はいないか、騎士隊に周辺を捜索させるそうです。
寝ているマール様の腕を見ると、赤い蛇のような紋様が先ほどよりも広がった気がします。
「この呪いには闇の魔力も感じるな」
「闇ですか?」
「俺には診れねぇから専門家を呼ぶ。どっちにしろ馬鹿王女の引き取りもやってもらうしな」
「専門家?薬師様ですか?」
「いや、魔法使いだ。全ての理を見通すって言ってやがるからな」
「え…それって、あの、勇者様の片腕の魔法使い様ですか!?」
オルさんはいたずらっ子みたいな笑顔を浮かべ、「有名人だぞー」と明るく言いました。
私を落ち込ませないようにするオルさんに、温かい気持ちになります。
「ふふ、オルさんだって有名人ですよね?」
「あー、田舎の村長やってたから、どうも疎くてなぁ…」
オルさんは荷物袋から小さな箱のようなものを出し、嵌め込んである水晶をなぞってます。
順番に光る水晶に口を寄せて、「クラウス聞こえるか?」と話しかけました。
それって、もしかして…遠距離の相手と会話ができる魔道具の『ケータイ』!?それって確か、すごく高価だって聞いた事がありますよ!?
さすが勇者様の仲間……三大英雄オルフェウスですね。マール様を助けた後で、たくさんお話を聞かせてもらいましょう!!マール様と一緒に!!絶対に!!
『やぁオル、昨日ぶりだね。あんな事はもう勘弁してよ?』
「それどころじゃねぇ、また馬鹿王女がやらかした」
『ん?……確かに城には居ないね、何があったの?』
「マールに呪いをかけやがった」
『ちょっと待ってて』
魔道具の光が止むと、部屋の空気に圧迫感を感じ…これは前に経験したことが…!?
ーーキイイイィィィィィィンンンッッーー
「転移!?」
「大丈夫。クラウスだ」
オルさんの落ち着いた声に安心したものの、転移魔法を初めて見る私はマール様のベッドにそっと寄り添います。やっぱり少し怖い…あの時を思い出すから…
空間が裂けたように見え一人の男性が現れます。
金に近いオレンジの髪と黄金色の瞳を持つ、マール様とはまた違った綺麗な方です。
どこかで見たような……ああ!!
「いやはや…愚姉が迷惑をかけて、度々ごめんね」
「クラウス第三王子殿下!?」
王国誌にも載ってました!絵姿の通りの方ですね!
……でも、確かお体が弱いという話では??
「まぁ、君には言っても大丈夫そうだから言うけど、勇者と一緒に魔王を倒すくらいには元気だよ」
「ミラなら大丈夫だ。俺の娘みてぇなもんだからな」
「僕はクラウス、よろしく。君がミラちゃんか…綺麗な白金の髪だね!さすが聖女だね!」
「え?」
私が聖女???
お読みいただき、ありがとうございます!
とうとう英雄三人揃いました。(一人寝てますが…)




