27、聖女と呪い
「聖女様…」
「なんて美しい…」
「聖女様…聖女様…」
カーチスさんが倒れた女性を支え、白金の髪の女性は何やら呼びかけているようです。
倒れたということは病気かも……聖女様なら奇跡が起こせるかもしれないけれど、ここはマール様にお願いしなくてはならないかもしれません。
マール様は隣の部屋に薬箱を置いていたはず。急がないと……
隣の部屋を開けようとすると同時に、オルさんが飛び出してきました。
「…っ!!ミラ!!」
「オルさん!!外で倒れている女性がいて…今はカーチスさんと聖女様と呼ばれている方がついているのですが…マール様はどちらに!?」
「マールは外に出た。俺が薬箱を持って行くから、ミラは部屋から動くな」
「そんな!!」
「落ち着け、聖女と呼ばれている女がいるなら、お前が外に出たら要らぬ混乱を招く」
悔しいけれど、オルさんの言葉は正論です。
しかも私は薬学を勉強し始めたばかり…役に立てることも少なく、外に出たら混乱を大きくしてしまうだけです…。
項垂れている私の頭をオルさんは優しく撫で、薬箱を持って宿の外へ出て行きました。
私は部屋でマール様を待つしか出来ないのでしょうか…。
キューン?(主達以外、ミラの姿は精霊魔法で見えないはずだよ?)
「シロさん!」
抱いている腕の中で、シロさんは呆れたような鳴き声を出しました。
確かに…人から見えないようにする精霊魔法だと、マール様もおっしゃってました。
キュンキュン!(こっそり行けば大丈夫だよ!)
「それって…大丈夫じゃなさそう…」
窓から外を見ると、薬箱を持ったオルさんがカーチスさんの所に走っていくのが見えます。
マール様の姿は見えません。
「急がないと…倒れた方が心配です。こっそり出てマール様を探しましょうか」
キュン!(行こう!)
外に出るとカーチスさん達を囲む人達が大勢います。どんどん人が増えていきます。
勇者様と聖女様の人気って凄いです……勇者様は偽物ですけど。
それよりも白金色の髪の女性はカーチスさんのお知り合いでしょうか。まさか本物の聖女様?とか?
シロさんを抱き直すと、意を決して人の波に飛び込みます。
心の中で謝りつつかき分けて進んでいくと、銀色の髪が見えてきました。その足元に倒れる女性と、支える白金の髪の……って、ふあぁぁぁ!!
伏せている瞳には長い睫毛。憂いを帯びた横顔に薄桃色の唇。薄く化粧をしているのか、甘い花の香りがします。
美しい!!美しいです!!
……あれ?おかしいですね?どこかで会ったような?
観衆の熱いため息が聞こえる中で聖女と呼ばれたその人は、女の私でも見惚れるほどの美しい顔をこちらに向けました。
その瞳は美しい紫で、みるみる大きく見開かれていきます。
「ミラ……ミラ!?何故ここに!?」
「……ふぇ?」
ぽうっとしていた私は、一瞬何を言われたのか分かりません。
その人が支えている女性はフードを被っていますが、覗く唇が真っ青で、意識も朦朧としているようです。
いけない!助けてあげないと!
「大丈夫ですか!?」
つい大声を出し、はたと気づく。
あれ?私って今……
倒れた女性の真っ白な手がゆらりと上がります。良かった、意識が戻って……
「見ツケタヨ。聖女」
しわがれた老人のような声。
フードの中から見えた目は暗闇の黒。昏い闇色。
真っ白なその顔は嗤っていて、ねっとりとした重い空気に息苦しさを覚えます。
女性はゆらりと立ち上がると、その白い手で胸についてた赤いブローチを掴み、私に向かって投げつけ……
「危ねぇ!!」
「危ないミラ!!」
同時に聞こえた声と、私を庇い覆い被さる甘い花の香りの中から、仄かに感じる薬草の香り。
「マール…様…?」
その美しい紫の瞳を細めて嬉しそうに微笑んだかと思うと、苦しそうに胸を押さえて私に寄りかかります。
「マール様?マール様!!」
「大丈夫…です…よ…」
「しっかりしろマール。とにかく宿に戻ろう」
「そんな!お医者様に診せないと!」
涙ぐむ私の手をマール様が掴みます。氷のように冷たい手です。さらに涙が溢れます。
「ミラ…さん…これは…呪いです…」
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