26、初恋の人
ど、どういう事でしょう。
記憶が戻ったと思ったら、そこからマール様の…マール様の…ど、どうしましょう、私…
何と言ったら良いのか分からずオロオロしていると、突然マール様が頭を下げた。
「すみませんミラさん!騙したような形になってしまって…でも僕はあの日の約束を破りたくなかったし、薬師としてもしっかりとミラさんのお母さん…メリッサさんの跡を継いでいきたいと思ったのです」
はい。そうですか。
って、そうじゃないです!
何やら気になる言葉がてんこ盛りだったような気がしますよ!
「まだ記憶が戻っただけで、頭の中の情報が処理できていないと思います。僕はカーチスさんの所に行きますので、このままゆっくり休んでいてください。ミラさんが落ち着いたら続きを話しましょう」
「俺は隣の部屋にいるから、何かあったら呼べよ」
マール様とオルさんは部屋を出て行き、私はシロさんと一緒にベッドに座ったまま呆然としていました。
両親の死は衝撃的でしたが、今は二人の生きていた頃を思い出せています。
家族で旅をし、母から精霊様のことを教えてもらい、森でたくさん友達になった動物や精霊様達と遊んだ幸せな記憶…
幼い私には受け止めきれなかった喪失感を、私は今しっかりと受け止めている。
それでも、悲しみはそのまま心を締め付けていって…シロさんをキュッと抱いて、私は亡くなった父母を思い涙を流すのでした。
ああ、これは夢なんでしょうね。
お父さんが行商の荷物の確認をしていて、お母さんが乾燥した薬草の処理をしています。
今より若いオル叔父さんが騎士様の格好で私の頭を乱暴に撫でて、痛いと怒るとゴメンって笑って抱き上げてくれます。
そのまま騎士隊の方々が集まる場所に連れて行かれ、大好きな若い騎士様…騎士のお兄ちゃまに遊んでもらおうと呼びかけると、いつも通り優しい笑顔で「いいよ、何して遊ぶ?」って言ってくれるのです。
「騎士のお兄ちゃま、ミラとずっといっしょにいてくれる?」
「うーん…この任務が終わるまでは…かな?」
「どっかいっちゃう?」
「そうだね……じゃあ、約束しようか?」
「やくそくしたら、ずっといっしょ?」
「うん。一緒だよ」
「やくそく、ずっといっしょね」
嬉しくなって抱きつくと、騎士のお兄ちゃまは優しく抱きしめ返してくれます。
スッとする清涼感のある匂い。お兄ちゃまの匂い。
オル叔父さんにくっつきすぎだと怒られるまで、ずっと抱きついているのでした。
……ずっと、一緒。
フワモコな白い毛玉が頬に擦り寄ってきます。
どうやら泣きながら寝てたみたいで、シロさんに心配かけたみたいです。
「ありがとうございますシロさん。もう大丈夫ですよ」
キュンと鳴いたシロさんは、私の頬をペロッと舐めてくれます。慰めてくれてるみたいです。
夢に見た騎士のお兄ちゃまは…勇者様で、そしてマール様なんですよね…。
ボワっと顔に熱が集まります。
私、すっかり忘れてましたけど、初恋の人が騎士のお兄ちゃまだったんですよね。
ずっと一緒にいたいとおねだりして、いつもくっついたり抱きついたり……うわわ、今考えると私ったらなんという破廉恥な事を!!
マール様は騙したみたいで…と謝っていましたが、全て私の為にした事なのですから謝る必要はないですのに…。
「ふぅ…」
ずっと一緒になんて、無理なのに……ん?あの日の約束って、まさか……もしかして……。
……いや、まさかですよね。
シロさんの耳がピクリと動きます。
何か、宿の外が騒がしいです。
「勇者様!」とか「聖女様お助けください!」とか、切羽詰まった声が聞こえます。
慌てて窓から外を見ます。
人だかりの中、銀髪の男の姿が見えました。一瞬ドキッとしましたが、カーチスさんです。…人だかりで揉みくちゃですね。心の中でご無事を祈っておきましょう。
「聖女様お助けを!」
「娘が病気で!」
「聖女様サインください!」
「聖女様!!
……すごい人気ですね。
これで私が出歩けない理由が分かりました。聖女ではないけれど、私は白金色の髪に緑の瞳を持ってます。否定しても無理ですね。この状態は。
その時、女性が一人倒れました。
気付いたカーチスさんが女性のそばに行くと、もう一人女性が出てきてカーチスさんに駆け寄ります。
白金色の髪をなびかせた女性が。
お読みいただき、ありがとうございます。
薬師仕事してないっすね…




