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25、そして勇者と成る

過去編終わりです。


「オルフェウス隊長。僕は精霊魔法を使おうと思います」


あれから一週間、起きるたびに悲鳴をあげるミラを薬草で眠らせ、食事も満足にとれずに痩せ衰えていく彼女を見守るだけの日々。

弱いながらも精霊の加護を持つ少年は、ずっと考えていたであろう決意を伝えてきた。


「それは危険はないのか?」


精霊魔法は、並の人間には負担が大きすぎる。加護を持つ人間は別だが、少年の精霊の加護は弱い。下手したら命に関わる。


「精霊の力と魔力を持つ僕にしか出来ないのです。彼女の記憶と力を封じる…森の精霊が教えてくれました」


「……で、お前はどうなるんだ」


「ミラちゃんのお母さんに頼まれたんです。あの時。僕とミラちゃんを庇って倒れた時、唇が動くのを見ました。ミラを頼むと」


少年の目には強い意志の光が見えた。

それ以上何も言えず黙っていると、少年はミラの頭に優しく手を置き微笑む。


「代償は僕の魔力。大丈夫です。魔力が無くなっても精霊の力があれば生きられますから」


「お前……どうして……」


黒に近い灰色の髪を揺らし、彼は俯いた。


「僕も目の前で父を失いましたから。守ると決めて騎士になったのに、守れなかった」


「馬鹿野郎。それは俺も同じだ。お前だけじゃねぇよ」


「でも、これは僕にしか出来ない。隊長、後の事は頼みます!」


少年が叫ぶと森が騒めく。

ミラの頭に置いた手から漏れ出す銀色の光……彼の魔力がミラに注がれている。


「精霊よ!彼女の記憶と力を封ぜよ!我が魔力を以って我は願う!」


強い風が森を揺らし、目も開けられない程の強い光が彼らを覆う。

体を動かそうにも、風の力が自分を地面に押さえつけている。薄く色づく精霊が数体、俺の体を押さえてるのが見えた。


「我が名は『マルス・グラディス』!!」


凄まじい魔力の放出を感じるとともに一瞬光が強まったかと思うと森と大地が大きく揺れ、次の瞬間嘘のように静かになった。

固く閉じた目をゆっくり開ける。押さえつけられていた体は、自由に動くようになっていた。


「!!」


勢いよく起き上がると、倒れている少年と眠る少女が見えた。

気配を読んで、生きている事を確認し安堵する。


「この馬鹿が。無茶しやがる……なっ!?」


思わず声をあげた。

ミラの白金色の髪は、ムスク兄と同じ茶色に染まっていた。

慌てて少年を見ると、彼の髪は…




輝くような銀髪になっていた…。




精霊の愛し子のために命をかけた少年は精霊王の加護を受け、後に『銀髪の勇者』と呼ばれる。

そして十年の精霊魔法はミラの心を癒し、今日までミラを慈しみ守っていたのだ。





-------------





長い独白を終えて、オルさんは優しい青い目を私に向けました。


「……オルさん、私は、私のせいで両親は……」


「それは違う。あれは仕組まれた事だった。お前を壊せば『勇者』という危険を回避できると、魔王は考えていたんだ。皮肉にも魔王の行動で勇者が現れたけどな」


「それでも……」


オルさんの淡々と話す言葉の端々に、私への愛情が感じられました。

叔父であるオルさんのことも私は覚えてなくて……それでもオルさんはずっと私が心を壊さぬように、親以上の深い愛情で見守っていてくれました。

両親の死、騎士の方々の死を、今なら受け止めることができます。

それでも魔王襲撃のきっかけは私だった……あの血の海を思い出し、騎士のお兄ちゃまの優しい笑顔……


「……え?」


「どうしたミラ?」


「騎士のお兄ちゃま……なぜ、マール様と似ているのですか?」


呆然とする私。

記憶の中で、私が一番懐いていた若い騎士様。

黒に近い灰色の髪、紫の瞳、優しい笑顔。


「はぁ、やっとか。魔法の解除失敗かと思ったぜ」


オルさんが大きくため息をつきます。


やっと?


「思い出していただき何よりです。ミラさん。

改めまして、マルス・グラディスです。今はハルノ村の薬師をしています」



輝くような銀髪と紫の瞳のマール様は、あの日と同じ甘く優しい微笑みを私に向けたのでした。





お読みいただき、ありがとうございます!

王道ですかね。


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