23、解ける魔法と過去
「オルさん!私の髪の色が変わって!違います、元に戻って?…というよりも、十年前に魔法をかけたって、なぜそんなことを?えと、その…」
「ま、まぁ落ち着けよミラ…」
「落ち着いてなどいられません!!」
マール様の事でドキドキしていたのとオルさんの顔を見て安心したのとで、ごちゃ混ぜになった感情が勝手に涙を出してきます。
子供のように泣きじゃくる私をオルさんはそっと抱きしめて、背中をポンポンと叩いてあやしてくれました。
少しずつ落ち着いてくると恥ずかしさ満載です。
困った顔のオルさんを見たら可笑しくなってきました。
「もう、オルさん、私は子供じゃありません」
クスクスわらうと、オルさんはあからさまにホッとした顔をしました。
マール様は不機嫌そうな顔をしてましたが、私が笑いかけると微笑んでくださいます。…心臓に軽く負担です。
「長く不在にして悪かった。ちょっと厄介ごとがあってな…今は少し落ち着いてるが…。とりあえずミラにちゃんと話さなきゃな」
オルさんとマール様は部屋にある椅子に座り、私はベッドに腰掛けました。シロさんは私の膝の上です。
「十年前の魔法はもうすぐ解ける。お前にかかっている魔法は、髪の色を変える魔法と、記憶を一部封じる魔法だ」
「記憶!?」
「封じられた記憶は、お前の両親についてだ」
オルさんから両親は「十年前の大戦で行方不明になった」と聞いています。そうではないという事でしょうか。そうなら私は…。
「選ぶんだ。ミラ。俺は、俺達は道を示してやれるが、お前の代わりに歩くことは出来ねぇ。それはマールも同じだ」
「…マール様…も?」
マール様を見ると、悲しげに微笑んでいます。その表情を何処かで見た事があるような気がします。すごく懐かしくて、胸が締め付けられるような記憶……
私は大切な何かを忘れている、そう強く確信しました。
「オルさん。記憶を戻すにはどうすれば良いのですか?」
「…俺が話せば自然に思い出す。良いのか?」
「はい」
私はしっかりと頷き、オルさんの青く悲しげに揺れる瞳を見ました。これはきっとオルさんにとっても辛い思い出なのでしょう。
「オルさん、ごめんなさい。ありがとう」
「気にすんな。俺はミラの親…なんだから」
ミラの父親ムスクは行商人だった。
商会を経営している長男がおり、次男である彼は村々を回る行商をする役目を担っていた。
三男のオルは幸いにも剣の才能があり、冒険者として活躍。その功績を称えられ国から叙爵し、騎士となった。
年を追うごとに魔物が増え、討伐の遠征が続いていたオルに、ムスクから妻を娶ったとの報告があった。
妻となったメリッサは珍しく精霊の加護があるとのこと。
精霊から受ける力は弱いものの、風邪薬や傷薬程度は作れるようで、行商に薬も加えて村々を回るとあった。薬師の少ない村では重宝されるだろうと。
それから数年後、魔物の動きから『魔王』と呼ばれる存在がいるかもしれないとの報告があった。
各地で精霊の恩恵を受けていると見られる人間が、魔物の標的にされ殺されているとのことだった。
精霊の力は魔物を弱体化させるし、精霊の集う森に魔物はいない。それくらい力のある存在が精霊だ。
そんな精霊の恩恵を受ける人間を狙っているということは、それを指示する存在がいるということ。
ムスクの妻メリッサも、少しだが精霊の加護がある。狙われる可能性と、魔王について少しでも情報が欲しいと思い、騎士隊長となっていたオルは騎士団を連れてムスクの元へ向かった。
その中には騎士になったばかりの少年がいた。
少年もまた、精霊の加護を持つ者だった。
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ブクマが増えると嬉しくなり、更新しなきゃという謎のプレッシャーが…




