21、堕ちる王女
第二王女様視点です。
シャルロッテ・ツヴァイ・エルトーデ。
わたくしはエルトーデ王国の第二王女。
半年前から見張りの兵士を増やされて、許可なく部屋から出られなくなったわ。
許可が出ても、常に見張りが付いている状態。
それでも、わたくしはずっと待って、待って、待ち続けていますの。
美しき天才。氷の美貌を持つマール様を。
あの日、薬師の証を受けられたマール様は、感情の無い人形のように美しく冷たい方なのだと思いましたわ。
それでも授与式の後に何処からかの手紙を受け取られて、その冷たいお顔が…まるで砂糖菓子のような甘い甘い微笑みに変わられた。
恋とは「する」ものではなく「落ちる」もの、なんて恋物語の本に書いてありましたけれど、わたくしも例に漏れず「落ちた」ようね。
昏い闇の中に。
光の届かぬ、昏く深い闇の中に。
だって、分かってしまったんですもの。
あの、甘い甘い微笑みには「相手」がいること。そして、わたくしにはその微笑みを見せてはくれない。
見せるのは、あの冷たく氷のような美しい美貌と、無機質で感情の見えない会話。
そんな落ち込む日々を送るわたくしに、光をもたらした方がいたのですわ。
その方は、城の魔道具部門で働いている、灰色のローブを着た魔法使いの方。
大望があり、その為に今はひたすら働いて、いずれ事を成し遂げたいと。
その方は仰ったわ。
「愛しい方が見る先に障害があるから、愛されるべき貴女に想いが届かないだけ」
「障害は、排除されるべきなのです」
「貴女にとって害があるのなら、無くしてしまえばいい」
「そう、緑の瞳を持つ貴女」
「貴女こそがずっと探していた、探されていた愛されるべき存在」
「聖女なのです」
聖女様…。
そうですわ。お父様が探されていたお伽話と言う名の伝説にある『聖女』。
銀髪の勇者様が現れて、聖女様の存在も期待されていた。でも、聖女不在のまま魔王は倒され、お父様もいつしか何も言わなくなっていて…。
わたくしはよく覚えていないわ。まだ小さかったから。
でも、皆が聖女様の話をしていたわ。
お母様から言われたもの。「シャルロッテのオレンジがかった金髪が、白金であれば『聖女』なのに。お父様がきっと喜んだでしょうね」と。
そうね。きっとそうだわ。
わたくしは『聖女』なのね。
それなら、きっとマール様も愛してくださる。
皆から愛されるべき存在なんですもの。マール様ひとりの愛ならば、すぐに頂けることでしょう。
わたくしは灰色のローブを着た魔法使いから、魔道具一式をもらって事を起こして…
でも失敗した。マール様が計画の邪魔をするなんておかしい。わたくしのマール様が。
あの女がマール様に何かしたに違いない。
軟禁状態の我が身が疎ましい。
「王女様」
「来たか。次はどうする」
「ククク…まぁそう焦らずとも」
「うるさい!早くしろ!」
ベッドサイドテーブルに置いてある茶器を投げつけると、奴はあっさりと受け止める。忌々しい。
「王女様は『聖女』なんですから、お淑やかにしないと…ククク」
「…分かっていますわ」
灰色のローブの下から、ひとつの魔道具が現れ、わたくしに差し出された。
血のように赤い、蛇モチーフにしたブローチのようなもの。
「どうやら、王都に『銀髪の勇者』が戻ってきたそうで」
「わたくしがいるから?」
「いやいや、彼の方は『聖女』を伴っていると」
「なんですって?」
『聖女』は、わたくしですわ。
…ということは、偽物?
「そう、聖女の偽物。あの美しい薬師も惑わされるかもしれない。排除すべき」
「偽物は排除」
「そう、貴女が本物の聖女」
「わたくしが本物」
「血で贖いを」
「偽物に死を」
「血を捧げよ」
「血を捧げよ」
灰色のローブは闇に溶け、すべてを飲み込む闇が広がり、そのまま落ちる。
落ちて、溶ける。
読んでいただきありがとうございます。
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