2、薬師マール様とシロさん
村から30分程歩くと森が見えてきます。
普段は誰も行かない場所です。
10年前に勇者様が魔物の王を倒したとはいえ、森や山などには未だ魔物が多く住むそうです。
「オルさん、なぜ薬師様は村で暮らさないのですか?」
「ああ、あいつは変わってるからな。薬草の採取するのに森の中にいるのが便利とか言う変人だ」
「え?知り合いなんですか?」
「昔ちょっとな。あいつが薬師様になるとは思ってもみなかった」
薬師様になるには薬草の知識だけではなく、多くの「知恵」と「力」が必要だと聞いてます。
そして薬師様になれる方も極少数で、多く人々から尊敬される存在です。
そんな薬師様が辺境の村に来るなんて…確かに変わってらっしゃるのかもしれません。
でも、オルさんの話し方からすると、怖い方ではなさそうなのでホッとしました。
森の手前に小さな家があります。
どうやら薬師様の為に新しく建てたようです。
「マール!俺だ!オルだ!来たぞー!」
オルさんが大声で呼びかけます。
「マール!生きてるかマール!」
「…うるさいですよ、オル」
ドアが開いて若い男性が顔を出しました。
柔らかな亜麻色の髪。
薄い茶色の瞳。
綺麗に整った顔を、私に真っ直ぐ向けてきました。
茶色のはずの瞳に、少し不思議な光が浮かびます。
心臓が、なぜかバクバク鳴って止まりません。
顔が熱くて、なんでしょう、私、病気なのでしょうか。
それよりも!
薬師様って、若い!若いです!
そしてなぜずっと私を見ているのでしょう!
「おい、マール」
「なんですか?」
「うちのミラに色目を使うな」
「色目とは失敬な。僕のお世話係ですからね、しっかり確認しているのですよ」
「マール…お前…」
薬師様は私から目をそらさず、オルさんに対応します。
見過ぎです薬師様!
そしてオルさんの殺気が凄いことに…!!
「貴女がミラさんですね。はじめまして。この度ハルノ村で薬師をさせていただくマールといいます。
よろしくお願いします」
「あ、あわわ、わわわ私はミラです!
ふ、ふふふつつつつかものですが、末長くよろしくお願いいいいいたしまするっ!」
「え?」
「ふぇっ!?」
顔が熱くて、のぼせたようになったわたしは、意味不明な自己紹介をしてしまいました!
恥ずかしいです!
恥ずかしいのです!
「あはっあはははははっ!ミラさん面白いですねっ!僕も末長くよろしくお願いしますね!」
「うう…すみません…」
「マール、お前ミラに何かしたら…」
「何かって何ですか、オル?」
「手前ぇ…」
オルさんの殺気がもう、怖い、怖いです!
「さて。冗談はこれくらいにして、ミラさんに仕事の説明をしますよ。
今日は初日ですから、家の案内と、僕の眷属を紹介しますね。中にどうぞ」
薬師様はパッと真面目な顔に切り替えて、さっと家に入りました。
苦虫を噛み潰したような顔のオルさんと一緒に私も入ります。
ん?
眷属?
薬師様が入った先に、真っ白で小さなフワフワした四つ足の犬…狼!?
狼さんです!
小さな狼さんがいます!
可愛いです!フワフワなのです!
「この子はシロ、僕の眷属になってくれてます」
「眷属というと、精霊様ですか?」
「そうですよ、よく勉強してますね。僕は運良くシロと出会えました。
だから森の中でも安心して薬草を採取できるのです」
薬師様に褒められて、ちょっと照れてしまいます。
シロさんは薬師様のそばに座って、キュンと鳴きました。
可愛いです!
「シロさん、私はミラです。これから薬師様のお世話係をさせていただきます。
よろしくお願いします」
私はしゃがんでシロさんにも挨拶します。
何にせよ、私は新人です。先輩には敬意を称さないとです。
その敬意?が伝わったのか、シロさんは私の膝にぴょんと乗り、頬をペロッと舐めました。
「こらシロ!」
「この犬っころが!」
薬師様とオルさんが騒いでます。
何でしょうね?
私はシロさんのもふもふを堪能させていただきながら、首をかしげるのでした。
こんな感じで進めるものなのでしょうか。もう少し頑張ってみます。