19、もうすぐ十六歳
少し短めです…
気管支炎って思考能力が奪われますね…
私の十六歳の誕生日まで、あと一週間。オルさんはまだ帰ってきません。
こんなに長いことオルさんが居ないって、少し心配になってきました。
村には村長代行として、王都で会ったカーチスさんがいるそうです。オルさんってば元部下だからって、騎士隊長さんに何て事を…
「ミラさん、薬学の基礎編は終了しましたので、次の段階に進もうと思ったのですが、教材を王都から取り寄せないといけないんですよ」
「え?この本はマール様の使っていたものではないのですか?」
「基礎編は僕のですけど、そこからはほぼ独学で…。実はその本、認定試験の後に購入したんです。独学だと一般的な薬学の知識が無いので、誰かに説明する時に必要かと思いましてね」
「は、はぁ…」
さすが稀代の天才と呼ばれる方…色々と飛ばしてますね。
あ、でもそれだと…
「いけませんマール様!本は高いですから、わざわざ買わなくても…」
「いやぁ、本当はもっと後だと思っていたのですが、ミラさんの出来が良すぎて…来年の春には村の貸本屋に入荷する予定なんですが」
村には珍しく貸本屋があります。
オルさんが教師をしていることもあり村の人達は皆さん勤勉で、他の村に比べて識字率も高いです。
「これからの時代、知識は武器であり、身を守る鎧でもある」とはオルさんの言。おかげで新規の行商人から騙される人も少なくなったそうです。
「でしたら、私は春まで待ちます。教本が無くても、毎日マール様と一緒にいるだけで素晴らしい教えを受けていると思いますから!」
「ミラさん…」
マール様が嬉しそうに微笑みます。
その蕩けるような甘い微笑みがなければ、私はもっと集中して勉強出来るような気がするのですが…
「ところでミラさん、あれから夢は見ませんか?」
「夢…ですか?」
あの夢を見てから髪の色は変わったまま。
村の人達にも会えなくなり、今の私は白金の髪に緑の瞳という組み合わせです。
元の茶色の髪にも愛着はありましたが、今の白金色にはなぜか違和感がなく、不思議な感じです。
「怖い思いをしていなければ良いのです。何かあったら僕に言ってくださいね」
「はい。ありがとうございます」
マール様は心配そうに、そして少し寂しそうな目をしています。
なぜそんな目で見るのでしょう。
問いかけようとした私の頬を、そっと撫ぜるマール様の温かい手。
ずっと、ずっとこうしていられたら…
「薬師様!いらっしゃいますか!薬師様!」
この声は…カーチスさん?
かなり緊迫した声に、思わず私は立ち上がりドアを開けます。
「ダメだ!ミラ!」
「え?」
マール様の叫びに、ドアを開けたまま固まる私。
そうでした。私の髪色が変わったから、人と会わないようにとマール様が…
驚きのあまり目を大きく見開いたカーチスさんは、徐々に顔が赤くなっています。
どうしようとオロオロする私に、顔を赤くしたままカーチスさんが呟きました。
「白金の…聖女様…」




