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18、白金の髪

前半マール視点です。

「オル、聞こえるかオル」


『んあ?なんだマールかよ』


「なんだとはなんだ。お前今どこにいる?」


『ナツキ町。一応冒険者ってことにしてる』


ずいぶん遠いところまで行ったな。オルにしては、かなり苦戦しているようだ。

魔王の残党探しなどと言うと大事になるから、オルも動きづらいだろう。


「そうか…何か分かったか?」


『ちょっとおかしな現象が起きた。もしかしたら一度王都に戻ってアイツに見せるかもしれねぇ』


「ミラに関係が?」


『…分からねぇ…けど…』


珍しく歯切れの悪い話し方をするオル。


「まぁ、それは彼に見てもらうとして。それよりもミラの髪色が元に戻った」


『何!?何故それを早く言わない!!』


「おい、それは予想出来てただろう?十六で解ける魔法だ。お前、ミラにどこまで話しているんだ?」


『ああ、両親は十年前の大戦で行方不明で、俺はミラを引き取った…と』


「まさか…それだけか?」


『それ以上言えねぇだろう?ミラはあの日、ショックを受けて寝込んで…起きたときには記憶があやふやになってたんだよ。かけられた魔法もあったし、そっとしておくしかなかった』


「…そう、か」


ミラの恐怖に怯えた表情。両手が血まみれだと言っていた。

もし、あの時のことがトラウマになっていたら…


それでも…


あの時の、幼いミラの笑顔。

美しかった。

何者にも汚されない美しさ。

僕は、ひと目で分かった。

なのに…。


「オルはミラの誕生日に一度戻って来れるか?」


『こっちの状況次第だ。努力はする。誕生日に二人きりにさせるとか…ただでさえ危ねーのに、ミラに手を出すなよ!』


「当たり前だ!ちゃんとしてから手は出す!」


『てめっ…ふざけんな!いい加減に…』


最後まで聞かずに魔道具の通信を切る。

まったくオルは、ミラのことになると過保護というか、親バカというか…。

とにかく、ミラの心が傷つかないよう、うまく記憶を取り戻せるよう努力しよう。

ミラの誕生日に、完全に解けてしまう前に。




===========================




「ふあああああああー…」


分厚い薬草の本をパタンと閉じ、思い切り伸びをします。

ずっと同じ姿勢でいたせいか、背中がすっかり固くなっていたようです。

足元で丸くなっていたシロさん(子犬バージョン)が、キュンと鳴いて膝に飛び乗ってきました。

どうやら疲れた私を心配してくれたみたいです。ありがたく真っ白なもふもふ毛並みを堪能させていただきます。ふわふわもふもふ癒されます。


「あ、いけません!今日は薬師様…マール様にクッキーを焼こうと思っていたのです!」


あれから薬師様をマール様と呼んでいます。

まだ意識しないでいると、つい薬師様と呼んでしまいます。

でもマール様と言うようになって、なんだか少し距離が近づいたような…ちょっとくすぐったいような、嬉しい気持ちです。


キュンとシロさんが鳴きます。

そうです、クッキー作らなきゃです。

朝食の後に生地を作って寝かしておいたので、オーブンに火を入れて、温まるまでに生地を薄く伸ばして型どりします。

表面に卵黄を塗って、オーブンが熱いくらいになったら焼き始める…と。


しばらくすると、バターの良い香りがします。

焼き具合を見てると、シロさんがキュキュンと鳴きました。


「そうですね、シロさん。これで出来上がりですね。成功して良かったです」


ひとつ取って半分に割って味見をすると、しっとりほろりとした歯触りで、ほんのりとした甘さがちょうどいい感じです。

キューンと鳴くシロさんに、残りの半分を差し出します。

サクサク食べるシロさん、キュン!と鳴きました。


「ありがとうございます!マール様の好みが分かるなんて、さすが眷属ですね……って、あれ?」


ふと気付きます。

おかしいです。

私……もしかして、シロさんと会話してませんか?


キュン!キュン!(やっと気付いたのミラ!にぶいなぁ!)


「えぇ!?」


(主が言ってたでしょ?銀や白金の髪は、精霊に愛されてる証なんだって。ミラは頭良いのに抜けてるんだからぁ)


そうです!確かにマール様が仰ってました!

マール様の言葉を忘れるなんて…教えていただいている身として、とんでもない事です!

私ったら…本当にダメダメです…




マール様にクッキーを持って行きましたが、落ち込む私を見てすごく心配されてしまいました。

さらに申し訳ない気持ちでいっぱいです。

あうううう……精進しなきゃです……





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