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17、名前で呼んで

少し短めです。

「薬師様!薬師様!」


震える足を無理やり動かし、家の中の薬師様を探します。

必死に叫びます。

なぜか薬師様なら何とかしてくれる…そんな気がする…


薬師様は庭の薬草園に居ました。

私の姿を見ると顔をくしゃりと歪め、走り寄る勢いをそのままに、優しく抱きしめられました。

自分に起こったことの恐怖と、薬師様の懐で安心したのがごちゃ混ぜになり、大きく声をあげて泣く私。


「ミラ…ああミラ、辛かったね。もう大丈夫だよ」


優しく撫でる手に、私はだんだん落ち着いてきました。

そして徐々に顔に熱が集まってきます。

恥ずかしくて心の中で悲鳴をあげながら慌てて離れようとすると、なぜか薬師様がガッチリと腕を固めていて私の力では離れられません。


「く、薬師様、恥ずかしいです…」


「ミラ…僕を名前で呼んで…」


「え?そ、そんな、恐れ多いです…」


「ミラ、お願い」


あううう、頬を寄せてスリスリしないでください薬師様!甘く耳元で囁かないでください薬師様!

色気だだ漏れ禁止!禁止です!

これは名前を言うまで続くんですね…人間諦めが必要って本当なのですね…


「はぁ、分かりました。マ、マール…様?」


ピシッと固まる薬師様。

ど、どうしたんでしょうか…やはり名前で呼ぶなんて良くないのでは?


「…すみませんミラさん、髪の色が変わって可愛さに磨きがかかってますね。

僕はつい、我を忘れて愛でてしまいましたよ」


薬師様は私からそっと離れると、ニコニコ笑顔で話します。

いつもの薬師様とは少し違う感じがしますが…。


「ミラさんの髪の色は、きっとオルが知っていると思います。白金の髪は『精霊に愛されし者』の証ですから悪いものではないですし、心配いらないですよ」


「急に髪の色が変わって…一時的なものなのでしょうか…

あの…実は…変な夢を見た後だったから怖くて…」


「夢?」


「はい。小さい子が泣いてて、血まみれの手が…」


「ミラさん!」


「はい!」


「ご飯にしましょう?さすがにお腹が空きました」


急に大声を出す薬師様にびっくりしましたが、安心したせいか私もお腹が空いた気がします。

朝から自分の変化にびっくりしましたが、オルさんが帰ってきたら色々聞かなきゃですね。

私も十六になります。もう子供じゃないのですから。

フンスと鼻息荒く気合を入れます。


「まだ…ですかね」


薬師様の呟き私の耳まで届かず、また忙しい日常が始まるのでした。








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