12、現状把握
ちょっと湿っぽい感じです。
後半視点が変わります。
「はぁ…さすがに今日は色々ありすぎて、頭が破裂しそうです…」
バフーンとベッドに倒れると、そのままゴロゴロしちゃいます。
清潔そうな布団には石鹸の香りがして、やっと人心地ついたような気がしました。
オルさんと薬師様は同じ部屋で、私は贅沢にも一人部屋です。
正直、心身ともに疲れ果てていたので、お二人には感謝です。
それにしても…。
オルさんの事は「もしかしたら…」と思っていましたが、まさか王国の騎士で、しかも総隊長だったとは。
兵士の隊長になると王国の騎士になれるって、王国史にありましたから…元とはいえ、偉い人だったんですね。そんな方が親代わりだったなんて…。
言葉遣いは乱暴でも物腰が優雅だったり、剣の腕が異常に強かったり、なんだか不思議だったんですよね。おかげで小さい頃からの謎が解けました。
それと薬師様。
天才と言われ、王国一の薬師と呼ばれ、何だか凄すぎて頭がついていきません…
精霊の力をつかったり、結界を壊すくらいの武器を持ってたり…
しかも…元騎士様とか!
確かに、後ろから抱きしめられた時「結構鍛えてらっしゃるなぁ」とか、腕や胸の筋肉を感じたり……って、私ったらハシタナイ!!今のは無しです!無しの方向で!!
ふぅ…少し落ち着きましょう。
そうです。王女様。
キツイ感じもしましたが、やはり凄く美人でした。
そして…私を憎むような目。
今まであんな風に人から見られたことがなかったし、あれほどの強い感情をぶつけられたこともなかった。
あれは、たぶん愛情。
どんな形であっても、王女様は薬師様を愛してらっしゃる。
オルさんも言ってました。王女様は薬師様にご執心だと。
胸にチクリと痛みが走ります。
一度ではなく、何度も。
チクリ、チクリ、胸を針に刺されるように。
ふと、顔に冷たさを感じました。
「どうして冷たいの?……涙?」
なぜでしょう。
私、泣いてます。
そうです。
私は平民で、小さな村の何の取り柄もない女の子で。
とても偉い薬師様のお世話係で。
そんなお方に仕えることが出来るだけで。
薬学をご教授頂けるだけで。
普通の人よりも恵まれてて幸せなんです。
何を期待していたのでしょう。
何を甘えているのでしょう。
泣いている自分が情けなくなってきます。
薬師様は優しい。
でも…
優しい薬師様が、優しすぎる薬師様が
なんだか悲しいです。
訳が分からないけど辛いです。
胸の痛みはさらに強くなり、涙は止まらず後から後から溢れてきます。
雫はそのままベッドシーツを濡らし、清潔な布団は私の嗚咽をも包み込んでくれたのでした。
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「どうしたマール?」
「ミラ…泣いてる、泣いてる!」
身体中の血が沸る。彼女が泣いているなんて、僕には耐えられない!
「落ち着け!元に戻っているぞ!」
オルの声に我に返った。部屋にある小さな鏡を見ると、僕の目がアメジストのような紫色をしていた。
「……すまない」
「マール、冷静になれ。お前が怒ったところで今は何も変わらねぇ」
「分かっている」
いや、僕は分かっていなかった。薬師になってあの子の側にいる事が出来て、僕は浮かれていたんだ。
第二王女が持っていた魔道具、あれは人為的に作られたものだ。
「森の家近くに埋められてた魔道具、『ミラ』を転移させるように作られていた」
「何っ!?まさかあの事が!?」
「わからない。だが、あれほどの物を作る人物がいるという事は…」
「これは、探ってみるしかない…か。もう少し村人生活を堪能したかったんだけどな」
「頼む。オル」
オルはニヤリと笑って、気にすんなと手を振る。
「お前も、ミラのケアをしっかりしとけよ。分かってるんだろ?」
「いいのか?」
「何だ弱気になって、お前らしくねーな。これは『決まってた事』だろ?」
そうだ。彼女は…
「今から俺は出る。城でちょっくら叙任されてくるわ」
「軽いな」
出て行くオルを目だけで見送って、ドアが閉まるとため息が出た。
さて、明日は彼女にどうやって接しようか…。
ブクマが、ユニークが、とても嬉しいです。
ありがとうございます!




