10、王都とオルさんの過去
私達は王都への入り口から少し離れた場所でシロさんから降ります。
するとシロさんはいつもの子犬サイズになり、薬師様が抱き上げました。
夕方も近くなり、門の前には荷馬車や人が多く並んでいます。検閲をする為どうやら入るまで時間がかかるみたいです。
「今日は特別な入り口から行きましょう。ミラさんの体が心配ですし、さすがに僕も疲れました」
そう言うと薬師様は行列の先頭までスタスタと歩き、検閲をしている門番さんに声をかけます。
「すみません、急ぎで王都に入りたいのですが」
「何だと?入りたいなら順番を守れ!」
門番は若い男性です。忙しいのか、薬師様に声をかけられると不機嫌を隠すことなく乱暴に返してきました。
「薬師様、私なら大丈夫です」
「いや、さすがにミラさんの体調が…」
「おい、ここの所属隊長はカーチスか?」
私達が話していると、オルさんが若い門番さんに話しかけていました。
「ん?なんだお前は」
「カーチスに言え、オルが来たと」
「え…オル…?隊長の知り合い?誰だお前…痛ってぇ!!」
声を荒げようとした門番さんは、後ろから突然現れた騎士様に思いきり頭を叩かれました。
「お前は馬鹿か!この方々を知らんとは!」
「よう、カーチス。久しぶりだなー」
「まさか貴方とここで会えるとは…お久しぶりです」
右手を左胸に当てて丁寧に礼をするカーチスさん、肩までの赤い髪をサラリと揺れます。オルさんの姿を見て青い瞳が嬉しそうに細められます。
「痛た…酷いですよ隊長」
「酷いのはお前だ!薬師様の行く先を塞ぐとは…ローブを見て分からんのか!」
薬師様のローブは若草色に袖と裾に金の縁取りがされていて、胸元には聖樹と呼ばれる樹の葉をモチーフとした「薬師の証」があしらわれています。
「オルフェウス総隊長、部下が失礼致しました。薬師の行動は何よりも優先されるべし…という決まりを守れず」
「元…な。今の俺はハルノ村の村長だ。もう国とは関係ない人間だ。この門番の事は咎めないさ」
「国一番と呼ばれる薬師様と一緒にいて、国と無関係とか言われましても…マール様もすみません」
「良いのですよ。連れのことが心配で早く宿に行きたいという、私的な理由ですから」
笑顔の薬師様とオルさんを見て、ハッとするカーチスさん。
「では、良い宿を知っているので案内します。…おい、お前は後で訓練場に来い。みっちり教育し直してやる!」
「そ、そんなぁ〜」
泣き顔の若い門番さんに、私は少し申し訳ない気持ちになりました。元はといえば私が原因のような気もしますし…。
「門番さんすみません、この後もお仕事頑張ってくださいね」
精一杯の笑顔で話しかけると、門番さんはピシリと固まり顔が赤くなりました。どこか具合でも悪いのでしょうか。
「カーチス、此奴に追加の教育な」
「僕からも追加ということで」
「了解です」
何やら三人の物騒なやり取りがありましたが、未だ固まる門番さんの耳には届いていないようです。
よく分からないけど、頑張ってください門番さん!
王都に入るとカーチスさんのお陰で、すぐに雰囲気のいい宿がとれました。
建物はそんなに大きくはないけれど、カーチスさん曰く清潔で料理も美味しい、お風呂のサービスがある評判の宿とのこと。お風呂はありがたいです。
色々な荷物を持っていたオルさんが私の鞄を渡してくれました。週末オルさんの所に泊まりに戻る予定で、一泊分の荷物を用意して部屋に置いてたのをそのまま持ってきてくれたみたいです。
こうなることを予期してたとは…何だかすごい人達です…。
埃っぽい体をお風呂でさっぱりさせると、一階にあるレストランで食事してから薬師様の話を聞くことになりました。
柔らかい鴨ローストと、野菜たっぷりのスープ、白く柔らかいパンをバターをつけて食べると、贅沢だなーって思います。
美味しい料理を堪能して食後のお茶が出る頃、薬師様が私に目を向けました。
薬師様は少し緊張されてるみたいです。
私も背筋が伸びます。
「ミラさん、今回の事をお話ししますね」
身分証とか、そういう展開も考えてましたが…テンプレっぽいのが好きです。




