まなの日
卵焼きのように甘くてふわふわした恋。
でも、すんなり受け止められない事もある。
料理は、最初から完璧にはつくれない。
7月27日、半袖でも暑いと感じる夜7時頃。
ゆかりとまなは、近くの神社に来ていた。
多くの屋台が境内に並び、子供から大人まで多くの人でにぎわっています。
そう、今日は夏祭りに来ています。
「久しぶりだなぁ。なつかしい~」
「私は親戚に小さい子がいるから夏祭り自体はよく行くけど、ここの神社のは初めてきたわ」
服装は、普通の服だけどそれぞれ楽しんでいる。
それはなによりも、彼女がいるからだろう。
ゆかりとまなは、屋台を一通り見てからそれぞれ食べたい物の所へ順番に回っていく。
焼きそば、焼きとうもろこし、たこ焼き、焼き鳥、リンゴ飴にチョコバナナ。
「食べてばっかりじゃない」
「両手に袋引っさげて言っても説得力ないよ、まな」
袋の中には、焼きそばだったかな?家族にあげるそうです。
そんなこんなで、時間は9時を過ぎ始めた頃。
いろいろと回っていると時間は早く過ぎていくものです。いや、好きな人といたからかな。どっちも
かも。
帰り道は話しながら帰りました。
笑いながら、あれが美味しくて、これが美味しくて。また行きたいねって。そして。
家に着いちゃった。
「私、まなの家まで送ろっか?」
「それじゃあ、私が家まで送った意味がないじゃない」
「そしたら、また、まなが私の家まで送ってよ」
「フフ、なにそれ」
まなが笑ってくれてる今の内に。
「どうしたの、ゆかり?」
私より少し背の高いまなの肩に腕をのばす。
「ゆかり・・・」
そのまま、背中に手をのばす。
「もう」
背伸びして顔を近づける。
目を閉じたまなの柔らかい唇に自分のを重ねる。
まなも私の背中に手を回してくれる。
唇を離すとまなは私に優しく語りかけてくれた。
「私はゆかりが好き。ゆかりの卵焼きみたいに甘くてふわふわで。だから・・・」
そこで一度言葉を切った。
「今日はさようなら。また、明日、ね?」
「うん」
あんまり顔を見られたくなかったから下を向いてた。
だめだ、まなの方見なきゃ。
「ゆかり」
でも、こんな顔、見せられない。
まなは私をぎゅっと抱きしめてくれた。
最後にもう一回、キスをした。
私の名前は櫻井まな。16歳、高校2年生です。
さっそくですが、私はレズビアンです。
それに気付いたのは、中学生のとき。
恥ずかしがり屋でなかなか人と話せなかった私に、1人女の子が話しかけてくれました。
黒い髪を肩までのばした少し子供っぽい女の子。
彼女はとにかく明るくて、人を寄せ付けなかった私に自分から話しかけてきて、
「櫻井さん・・・だっけ、下の名前なんだっけ?」
「え・・・、ま、まな」
「まなか!そうだった、そうだった!」
なんだろう、この子。
それが第一印象だった。
その子はそれからも話してくれた。
最初は、私なんかと話してなにが楽しいんだろうと思ってた。でも、彼女から話しかけてきてくれたから断ることはしなかった。
でも、段々と私も楽しくなって、昼休みとか彼女ばかり目で追いかけるようになってた。
時々、自分からも話しかけたりもするようになった。
この時は、ただ寂しかったから、話し相手が欲しかったからって思ってた。
ある時、私はそれまで気になってたことを彼女に聞いた。
「ねぇ、どうして私に話しかけてくれたの?」
「みんなと仲良くなりたかったからね。まなちゃんとも仲良くなりたくて」
それを聞いて私の中の何かがなくなった気がした。
みんなと。
あんなに話してくれて、一緒に遊んで、それが他のみんなと同じ。
その後、普通に学校で時間を過ごし、家に帰ってきた後、すぐにベッドに潜り込んだ。
多分、1時間は超えていたと思う。それくらい、ベッドで泣いていた。
私にもよく分からなかった。
でも、とにかく悲しかった。
否定してた。
彼女を好きになったなんて。
おかしいって思った、私は女の子、彼女も女の子。
私は女の子を好きになった?
違う。
寂しかったんだ。そう、寂しかった。
これまで、友達なんか全然出来なかった私に出来た友達。仲良くしてくれて、話して遊んだ。だから、悲しかった?
どうして?
みんなと仲良くなれるのは良いことだ。そんな彼女を尊敬する。でも、彼女が他の子と話してるのがなんか嫌だった。
どうして?
そんな考えが堂々巡りして、よくわからなくなって。
そうしてたどり着いてしまった答えが、
「私は、あなたが好きです」
「え?うん、私もまなちゃんのこと好きだよ」
「違うの、ライクじゃなくて、ラブのほうで・・・」
「どうしたの、まなちゃん?え、ラブって」
「ごめん、逆だった!ラブじゃなくて、ライクのほうだった。ごめん、ごめん」
「そうだよね、びっくりした。ラブだったら大変だよ。私たち女の子同士なのに」
彼女は笑ってくれた。でも、その笑顔が悲しかった。
私の思いは届かない。
彼女は、他の友達と一緒の高校に進んだ。私はあえて違う高校を選んだ。
何回も考えた。本当にそれでいいのって。
私の答えは変わらない。後悔はしてない。
私は、女性が好きだ。好きだった。
それで、終わったはずだった。
彼女に出会うまでは。
家に帰って、昼のことを思い出していた。
「横山ゆかり・・・」
彼女の容姿は、彼女にそっくりだった。
黒い肩までの髪、黒くて大きな目、顔は、ゆかりのほうが大人っぽいかも。背もゆかりの方が大きいな。手、きれいだった。料理好きなのかな?卵焼き、美味しかった。甘くて、ふわふわしてて。こちらをぼーっと眺めてる目に、もちっとした頬に触れたくて。
昼から、ずっとゆかりばかりを見てた。
「いけないわ、私、また」
また、女の子のことばかり見ちゃってた。
でも、
「仲良くなれるかな」
今度は間違えない。
友達になる。
それ以上でも、それ以下でもない。
もう、女の子に恋はしない。