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ゆかりの日

ゆかりとまなの卵焼きが結ぶ甘い日常。

ドキドキ甘い日常をお届けしたいです。

「まな好みの卵焼きになるように作ってみたの」

「ええ、とても美味しいわ。でも、できれば、もう少し甘く」

「本当に甘党だね。わかった、今度は砂糖をどさっといれちゃう」

「さすがにそれは入れすぎじゃないかしら」

 季節はそろそろ夏に入り、もう、制服を半袖にしてる人も増え始めてる。

 人のいない昼の校舎屋上。

 ゆかりとまなは、弁当を膝の上に広げ話ながら少しずつ食べていく。

「これ、昨日のハンバーグの残り。良かったら食べて」

「ありがたくいただくわ。でも、人に勧めてばかりいないで、ちゃんと自分の分は自分で食べなさい」

「あはは。だって、まなが幸せそうに食べてるところみると嬉しくって」

「そ、そう」

 そう言い、まなは私の半分に割ったハンバーグの片方を箸でつかみ口に運んだ。そして、こちらを見て笑ってくれた。

「美味しいわ。さすがね、ゆかりさん」

「えへへ」

 そうして時間はあっという間に過ぎ、そろそろ昼休みが終わる頃に。2人は弁当を片付けている。

「まな、今日のご褒美・・・」

「好きね、あなた。まあ、美味しいご飯もらって何も返さないわけにはいかないし、言ったの私だしね」

「いやなら別にいいんだよ?料理は私が好きでやってるだけだし」

 顔がにやついてるのが自分でもわかる。

「もう・・・」

 まなは、ゆっくりと顔を近づけてきた。

 私も少し顔を近づけ、目を閉じる。

 まなの息がかかる。近くに感じる。

 好きな人の匂い。

 唇に柔らかい感触。

 そこから、私の想いが、ドキドキが伝わっていそうで、そうあってほしくて。

 2人は短い間、長いキスをした。

 



 私の名前は、横山ゆかり、16歳。県立の高校に通っています。2年生です。

 成績は、中の上程度。私より頭のいい人もいるし、私に勉強を教えてと言う人もクラスにはいます。

 友達は多くないです。でも親友と呼べる人はいます。小、中学からの友達や、高校で新しく出来た友達も、大切な友達です。

 最近周りでよく話すのが、恋愛事情です。私はあまりその手の話が得意ではありません。というのも、私は、あまり男の人が好きではありません。男性アイドルとか若い男性俳優さんは、かっこいいとおもいます。でも、私はそれより、可愛い女性アイドルとか、きれいな女優さんの方に強く惹かれます。

 最初は単に、この人みたいに可愛くなりたいとか、きれいになりたいっていう憧れだと思っていたのだけれど、最近気付きました。


 私は、女性が好きなんだって。


 友達としてではなく、恋愛の対象として、です。

 それに気付いたのは、1人の女の子と出会ったからです。

 2年生で同じクラスになった、櫻井まなさん。

 頭が良くて、テストでは毎回90点以上取っていると思います。テストの点数は発表されませんが、誰かが櫻井さんに聞いてるのを盗み聞きしてたり、私の席が廊下側の一番後ろで、テストが返される日は、席に戻るとき、隣の席の櫻井さんのテストを、チラッと覗き見てたりします。

 とても真面目で、授業中は一切喋りません。むしろ私が友人と喋ってるときに注意されます。私が真面目じゃないだけかもしれませんが。

 運動神経もよく、体育の授業では、たまたま私と同じバトミントンを選択していて見る機会があったのだけれど、中学の頃からバトミントンをやっていた友達から「才能ある」といわれ、5月の体育祭では、女子の運動部に並んで走ったりと、料理研究部に所属してる私には考えられないくらいの体力の持ち主だと思います。

 そんな、文武両道な櫻井さんでも、こんな日はあるんだなってことがありました。

 ある日の昼休み、私は友達と教室でお弁当を食べようとしたとき、櫻井さんが、本を読んでるのを見ました。

 普段は黄色い、可愛らしい弁当箱を机に広げて美味しそうに食べている櫻井さんが、そうしていない。

 それがあまりにも不思議で。

「お弁当はどうしたんですか?櫻井さん」

 これまで、全然声かけられなかったのに、今日だけはそんな違和感が緊張に勝っていたようだ。

 櫻井さんは、読んでいた本を閉じ、こちらに顔を向けてくれた。

「忘れたの。今日、朝忙しくて」

 そういえば、登校してきたのいつもより遅かったな。

「お腹空かない?私の分けようか?」

 精一杯の努力だった。これで、もっと仲良くなれればって、でも。

「いえ、大丈夫よ。気持ちだけ受け取っておくわ、ありがとう」

「そ、そうですか、わかりました」

 ダメなのかな、って諦めてた。その時。

「櫻井さん、ゆかりのお弁当食べてみてよ、おいしいよ。ゆかりの卵焼きとか」

 友人が助け舟を出してくれた。

「そう、分かったわ。1つもらえるかしら」

 奇跡のようだった。友人には、感謝しなきゃ。今度、プリンでもプレゼントしなくては。

 私は弁当箱の蓋に卵焼きを1つのっけて、櫻井さんの机の上に置く。

 櫻井さんはそれを手で掴んで口に入れる。自分の箸を渡したら良かったかな。

 櫻井さんは目を閉じて、私の卵焼きを食べている。

 一口で食べるんだとか、唇きれいだなとか、そんなこと考えながら櫻井さんのことを眺めていると。

 櫻井さんは食べ終わったのか、ハンカチで手を拭いて、

「美味しかったわ。ありがとう、横山さん」

 ニコッと笑ってくれた。

 ドキッと胸が鳴ったのが聞こえた。

 いつもみたいな、美味しそうに食べる顔。

 こちらに向けられた笑顔。

 自分の料理で、喜んでくれた。

 美味しい、と言ってくれた。

「ゆかり?」

 ハッと意識を現実に戻す。

 櫻井さんはこちらを不思議そうに見ている。どうやら、ぼーっと櫻井さんのことを見てしまっていたらしい。

「あ!す、すいません」

「いえ、構わないわ」

 友人も笑っている。恥ずかしかったけど、とても、嬉しかった。

 これで、一歩進めたのかなって。

 この時にはもう、すごく意識してて。

 また、食べてもらえるかな。

 また、笑ってもらえるかな。

 彼女とは、もっと仲良くなれる、なりたい。だから。

 私はまた努力する。私を見てくれる事なんてないって諦めながら。


 そして、

 まな)の話も始まる。

 そう、あの時、あの卵焼きが、私の話を変えた。

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